1958年の初来日以来、全国規模での動物サーカスを開催しているボリショイサーカスでは、特定動物のクマが利用されています。そして毎年、環境省告示の「特定動物の飼養又は保管の方法の細目」に違反する、「クマとの記念撮影」が行われています。 ボリショイサーカスのスタッフが自ら手を取って、クマに触らせ、(2016年横浜公演) 1回1000円で写真撮影(2016年横浜公演)。おやつ2016年横浜公演では、サーカス開始前の30分、合間の休憩の15分、サーカス終了後の30分にクマを利用した記念撮影が行われましたが、いずれもクマと人との間に檻などの遮るものはなく、スタッフが積極的に観客にクマを触らせています。 犬と馬でも記念撮影が行われていましたが、犬や馬との大きな違いは、「おやつ」です。 クマの調教師は、クマをその場におとなしくとどめ置くために、ひたすら「おやつ」を与え続けていました。もしも「おやつ」がなければクマが「おやつ」以外の何に関心を示し、どのような行動に出るのか予測できない、そう思っているからこそ調教師は「おやつ」でクマの注意を引き続けているのでしょう。ストレス下にあるボリショイサーカスのクマボリショイサーカスで利用されているクマは、野生の自然界で生きているクマとは全く違う状況に置かれています。オスのヒグマならばその行動圏は400㎢~1100㎢におよび、本来なら広い大地を自由に歩き回り水分の多い青草やベリーなど植物を中心に昆虫の幼虫やサケなども食べ、10~11月には自分で穴を掘りあるいは樹洞などに冬眠します。子育て中のメスや交尾期以外は通常ヒグマは単独生活者です(*1)。 しかしそのような本来あるべき生態も尊厳も「動物サーカス」で商業利用されるクマはすべて奪われてしまっています。150㎝×150×100㎝程度の狭い檻(*2)に入れられて、ロシアから日本、そして日本国内を人間や他のクマと一緒にあちこち移動させられ、芸を強制されます。サーカスに利用されるクマは自然界の熊とは違い、常に強いストレス下にあります。 2012年の福井公演ではクマが暴走していますが(*3)2016年の横浜公演でもクマが舞台から一時退場する際に調教師に躍りかかり、3階の客席にも調教師がクマを大声で怒鳴りつける声が響きました。サーカスでの拘束に比べると、まだ自由のあるサファリパークでもクマが人を襲う事件が起こっています。サファリパーク従業員がクマに襲われ死亡 群馬 8月16日 18時23分 NHKニュース16日午後、群馬県富岡市の「群馬サファリパーク」で、車で園内を巡回していた従業員の女性が、放し飼いにされているツキノワグマに襲われて、病院に運ばれましたが、その後、死亡が確認されました。 16日午後1時15分ごろ、群馬県富岡市にある群馬サファリパークで、車で園内を巡回していた従業員の齋藤清美さん(46)が、放し飼いにされている体長およそ1メートル70センチのオスのツキノワグマに襲われました。 齋藤さんは胸や腹などをかまれ、意識不明の状態で病院に運ばれましたが、その後、死亡が確認されました。 警察によりますと、齋藤さんは園の軽乗用車に乗って1人で巡回していたところ、車内でクマに襲われ、目撃したほかの従業員が消防に通報したということです。奴隷的処遇に耐え、ストレス下にある熊を「一回1000円」の商売のために「記念撮影」に利用し、観客を危険にさらす行為をボリショイサーカスは毎年行っています。特定動物は「第三者が容易に特定動物に接触しないよう措置を講じる」クマなどの特定動物を扱う場合は興業地ごとに各都道府県知事の許可が必要になります。 そして特定動物を飼養保管するにあたっては、下記の環境省告示を守らなければなりません。 (赤字はアニマルライツセンターが強調)特定動物の飼養又は保管の方法の細目 第3条 規則第20条第4号の環境大臣が定める飼養又は保管の方法の細目は、次に掲げるとおりとする 三 第三者が容易に特定動物に接触しないよう措置を講じるとともに、当該特定動物が人の生命、身体又は財産に害を加えるおそれがある動物であり第三者の接触等を禁止する旨を表示した標識を、特定飼養施設又はその周辺に掲出すること。ただし、動物の生態、生息環境等に関する情報の提供により、観覧者の動物に関する知識を深めることを目的として展示している特定動物 の飼養又は保管をする場合であって、かつ、観覧者等の安全が確保されているものとして都道府県知事が認めた場合にあっては、この限りでない。もしもこの細目を守らなければ、動物愛護管理法 第二十九条の二により特定動物の飼養保管の許可を取り消される可能性もあります。ボリショイサーカスでは特定動物に接触しないような措置が講じられていないだけではなく、ボリショイサーカススタッフが積極的に観客にクマを触らせています。例外規定「ただし、動物の生態、生息環境等に関する情報の提供により、観覧者の動物に関する知識を深めることを目的として展示している特定動物 の飼養又は保管をする場合であって、かつ、観覧者等の安全が確保されているものとして都道府県知事が認めた場合」に限っては接触しない措置を講じなくてもよいとされていますが、一回1000円で記念撮影する商売において「動物の生態、生息環境等に関する情報の提供」は何も行われておらず、ただクマに触って写真を撮るという過程は撮影一組あたりおよそ10秒も要しておらず「動物に関する知識」を観覧者は何も得ていません。また観客とクマを遮るものが何もない状況で観覧者の安全は担保されません。よってボリショイサーカスの「1回1000円でクマと記念撮影」はこの条文の例外規定には当たらないため、ボリショイサーカスの「1回1000円でクマと記念撮影」はこの条文に違反することになります。行政や主催者の対応 2016年横浜公演 横浜公演の際に、管轄の動物愛護センターにこの問題を知らせたところ、センターからボリショイサーカスに「写真撮影にはクマではない動物を使用する」「第三者の近くに連れて行かない」などの指導が行われました。しかしボリショイサースは、その指導を守らず、8/7の横浜公演最終日にも人々にクマを触らせ記念撮影を実施しました。福岡公演 福岡公演前に、福岡市動物愛護管理センターにこの問題を知らせたところ、センター側は「クマとの写真撮影」は“特定動物の飼養又は保管の方法の細目”第3条三の例外規定にあたると考えており「問題ない」との判断でした。 こちらからは“特定動物の飼養又は保管の方法の細目”第3条三の例外規定(『ただし、動物の生態、生息環境等に関する情報の提供により、観覧者の動物に関する知識を深めることを目的として展示している特定動物 の飼養又は保管をする場合であって、かつ、観覧者等の安全が確保されているものとして都道府県知事が認めた場合にあっては、この限りでない。』)にはあたらないので、条文に書かれているとおり「第三者が容易に特定動物に接触しないよう措置を講じるとともに、当該特定動物が人の生命、身体又は財産に害を加えるおそれがある動物であり第三者の接触等を禁止する旨を表示した標識を、特定飼養施設又はその周辺に掲出すること」が必要なのではないか、と意見しましたが、福岡市動物愛護管理センターによるとボリショイサーカス側はクマとの記念撮影を、「動物の生態、生息環境等に関する情報の提供により、観覧者の動物に関する知識を深めることを目的」と行っていると回答しているとのことで、センター側もこのボリショイの考えを支持するとのことでした。 「動物の生態や習性に関する情報提供は何も行われていないし、観覧者の知識を高めてることにつながっていないのでは?」というこちらの意見に、福岡市動物愛護管理センターは「訓練師の元でしっかりしつけられていれば、こういった写真撮影も可能を行うことも可能ですよということは、その動物に関する知識を深めることにつながる」また「条文には『動物の生態、生息環境等に関する情報の提供』とかかれており、『など』ということで具体的に規定されているわけではないので広く解釈して構わないと考える」とのことでした。 しかし明確な規定がなくても社会通念として「訓練師の元でしっかりしつけられていれば、こういった写真撮影を行うことも可能ですよ」などという情報は「動物の生態、生息環境等に関する情報」に含まれるとは考えにくいのではないでしょうか。高知公演 高知公園の前に、高知市保健所へこの問題を知らせたところ、「問題ない」との判断でした。どのような方法で安全を担保しているのかとの質問には「回答しません」との回答でした。大阪公演 長野公演の前に、管轄の動物愛護センターへにこの問題を知らせたところ、25日の公演を視察に行ってくれました。その結果「小さいクマが使用しており、リード、胴輪、スタッフ4名で安全性は担保されていると考える」との判断でした(*しかし横浜公演では小熊だけではなく人より大きいクマも使用されていました)。長野公演 長野公演の前に、管轄の保健所にこの問題を知らせたところ、保健所からボリショイサーカスに指導が行われました。(その後確認したところ、クマとの記念撮影は実施されなかったとのことです。)所沢公演 所沢公演前に、管轄の保健所にこの問題を知らせたところ、保健所からボリショイに確認をしていただき、「前回の公演で指導があったため、所沢公演では写真撮影を行わない」というボリショイサーカス側からの回答だったとのことです。幕張公演・名古屋公演 両公演前に、管轄の行政にこの問題を知らせたところ、行政がボリショイから「写真撮影にはクマを使用しない(元からその予定がなかった」ことを確認。東京新聞 アニマルライツセンターが、その会場前で毎年啓発活動を行っている、ボリショイサーカスの関東地域の公演を毎年主催している東京新聞(2016年は、東京公演、横浜公演、幕張公演、所沢公演を主催)に、この問題を知らせたところ「クマとの写真撮影が行われていることは知っていたが、問題ある行為だという認識はなかった」とのことでした。 おそらく来年も関東方面の主催者になるであろう東京新聞には「クマとの記念撮影」を今後もおこなうかどうか、確認中です。* 2016年のボリショイサーカスはA班とB班に分かれて興業しており、写真撮影を行うのはB班(横浜・福岡・高知・大阪)だけとの案内でしたが、確実な情報が分からなかったためA・B班ともに申し入れしています。 * 8月3日に「クマとの写真撮影」が行われていることを把握したため、8月3日以前の公演会場(東京・札幌・長岡・京都)の管轄行政には申し入れしていません。—————————————-横浜公演では休憩時間の15分の間に14名が熊との記念撮影が行われていました。サーカス開始前・開始後も同人数が撮影を行ったとして42000円の売り上げです。その42000円の売り上げのために規則違反し、観客を危険にさらすのが動物サーカスです。 「クマとの記念撮影1回1000円」には、動物を狭い檻に閉じ込め連れまわし芸を強制する動物サーカスの陰湿な部分が透けて見えます。多くの国がサーカスに動物を利用することを規制し始めているなか、時代に逆行した動物サーカスに固執し続けても、なんら益するところはありません。 ボリショイサーカスは動物を使用しなくても十分に人を魅了する素晴らしい芸を披露してくれます。動物から搾取し続ける必要はどこにもありません。*1 参照2011年 動物行動図説 *2 参照PEACE命の搾取ではなく尊厳を http://circuscruelty.animals-peace.net/bolshoi/bear *3 「3日間の公演の中日でしたが、前日ちょっとした事故があり、地元の新聞にも載りました。それを受けての2日目。。。。まさか何も起こらないよねって思っていたら、起こりました。詳しくは書けませんが、クマが観客席にまっしぐら。けが人は出ませんでしたが。怖かったです。」 http://ameblo.jp/4546510/entry-11304089072.htmlクリックして Twitter で共有 (新しいウィンドウで開きます)Facebook で共有するにはクリックしてください (新しいウィンドウで開きます)クリックして X で共有 (新しいウィンドウで開きます)Share This Previous Article砂浴びの必要性 Next ArticleLUSH EQUIA✕アニマルライツセンターイベント 飼う前に考えよう 2016/08/12