静岡県下田の隣、南伊豆町にある大根島(海水浴場ヒリゾ浜の向いの無人島)に、タイワンザルが地元の町おこしを理由に数十年前に連れてこられました。
この時から始まった、人間の都合に翻弄され続けた猿たちの経緯を公表します。
静岡県大根島のタイワンザル問題
~無人島で生き続けたサルたちの行方~
〔2011年/会報より〕
過去の経緯
静岡県南伊豆町、風光明媚な観光名所・ヒリゾ浜の向かいに、大根島という周囲1キロ、高さ60メートルの岩山の無人島があります。
1965年頃、数名の南伊豆町住民と観光業者が大根島観光を計画し、その目玉として10数匹のタイワンザル(50匹説あり)を台湾から輸入し、大根島に放しましたが、途中で計画は頓挫。サルたちはそのまま大根島に残されました。
その後、伊豆クルーズという観光会社が大根島を遊覧コースに組み込み、伊豆クルーズと観光客が遊覧船から投げるわずかなサツマイモを主な糧にして、サルたちは今日まで生き延びています。
2010年の様子
ARCメンバーが2009年と2010年に大根島に上陸し、視察したところ、動物園のサル山が巨大になったような岩山の島には一部に申しわけ程度の緑があるだけで、果樹はなく、断崖絶壁の島でカニや海苔などを十分に捕食できるとも思えず、雨露を凌げるような構造物もありませんでした。
伊豆クルーズによれば、年間100日は悪天候のため遊覧船は大根島に近寄れず、その間まったく餌は与えられていないとのこと。地元住民も餌やりはしていないそうです。(サルを輸入した住民は既に死去)
基本的に水を嫌うタイワンザルたちは、餌が圧倒的に不足している大根島から小船でわずか5分ほどの対岸にある南伊豆町に逃げ出すことも叶わず、50年近くも近親交配を繰り返しながら現在に至っています。
2009年の環境省と県の現地調査によれば、7~8頭が生息しており、内2匹は子供。なお、環境省は、伊豆クルーズは厳密にサルの所有者とは言えないので、飼養者と位置づけています。
外来生物の指定により、行き場を失った
2005年、タイワンザルは特定外来生物に指定され、万一、大根島から南伊豆町に泳いで渡った場合、ニホンザルとの交配が危惧されるため、環境省は大根島からタイワンザルを排除することを決定。
ARCとしては、大根島は確かに過酷な環境だが、自然からあまりにもかけ離れた狭小施設に閉じ込めるよりは、繁殖制限手術と適切な餌やりをして大根島でその生を全うさせるほうがサルにとっては望ましいと思い、大根島での飼養継続の可能性について環境省と話をしましたが、外来種の飼養施設基準を満たしていない大根島での飼養は違法に当たるということで認められませんでした。
ARCは伊豆クルーズとも話し合いを持ち、これまで観光資源として利用してきたサルたちを引き取って適正飼養してほしい旨訴えましたが、資金難を理由に、その意志はまったくありませんでした。結局、環境省が探してきた2カ所の展示施設(実験機関ではなく動物園等であると、環境省は口頭で回答)に分散収容することが決まり、現在、伊豆クルーズは捕獲準備を進めています。
しかし、2011年6月現在、環境省は収容施設名を明らかにしていません。
外来生物を引き取る施設は非常に少なく、やっと見つけた施設に迷惑がかかると困るし、現在進行中のプロジェクトでもあるので施設名は教えられないという理由です。私たちは、環境省にタイワンザルの飼育許可を得ている施設一覧の情報開示請求をしましたが、黒塗り部分があって特定には至りませんでした。
また、国会議員事務所を通して、施設名を教えてほしいと頼みましたが、それも断られました。哀れな背景を持つ大根島のサルたちが収容される施設名さえ判明しないことを大変遺憾に思っていますが、収容後であれば判明する可能性はあるようなので、そこに期待したいと思います。
なお、私たちが一番懸念していることは、展示施設に引き取られたサルたちが、そこで繁殖されたり、実験機関等に渡される可能性についてです。
狭い環境に収容されることと引き換えに、人間のエゴの犠牲になり続けた50年間に終止符が打たれるなら、それは解決策の一つではありますが(少なくとも飢えや渇きとは無縁になる)、もし施設から実験機関に渡るようなことがあれば、あのサルたちの末路として到底許すことはできません。
私たちは、50年も前に台湾から無理やり連れてこられたサルたちの子孫が、これ以上日本で不幸にも生き延びることのないよう、現在いるサルたちだけを最後の一代にしたいと願っているので、収容施設での繁殖と実験機関への譲渡は絶対に行わせないことを何らかの形で担保できないか環境省に尋ねたところ、各施設で飼育許可を受けている個体数は決められているので、それを超えることはできない。
数の縛りがあるので、現実的に繁殖はできないはずだとの返答でした。
繁殖させた個体を実験施設等に横流しする可能性については、ないとは言えないかもしれないが、それはすべての展示施設のすべての動物に対して言えることなので、今回の一事例に限った話ではない。また、実験機関は質が均一化された個体を使用したいので、専門の業者から仕入れるのが一般的なのではないかと言われました。
結局のところ、収容後は一般的な展示施設動物になるので、大根島のサルだけについて100%の確約を出せるものではないとのことで、不安は完全には払拭されませんでした。
今般の東日本大震災では、犠牲になった多くの動物たちに関する報道が耳目を集め、同情の声が高まっていますが、年間1/3も餌を与えられず、孤島で近親交配と餓死を繰り返してきただろう大根島のサルたちは、年がら年中被災していると言えるかもしれません。
大根島のように人から餌を与えられなければ自活できない(食物がほとんどない)環境に動物が放置されたことの残酷さを、今、改めて痛感しています。
無人島で生き続けたサルたち、殺処分へ?
[2012年会報より]
2011年末時点ではサルの数は9頭になっているようです。
2005年にタイワンザルが外来種指定され、また、大根島からすぐ目の前の本土に泳いで渡る可能性があることから、国は大根島からタイワンザルを排除することを決定。飼養者と見なされている伊豆クルーズからは、サルたちを全頭捕獲して展示施設に収容するという計画を聞いていましたが、2012年1月に進捗状況を尋ねたところ、資金難等を理由に、収容ではなく殺処分することになった。捕獲・殺処分方法は専門家と協議中という答えが返ってきました。4月に現況を環境省に確認すると、捕獲機を仕掛けて、麻酔注射による殺処分をすると聞いている。(大根島内で処置するのか、移動させてからなのかは不明)そのためにも現在は餌付け中のようだとのことでした。
展示施設に収容とばかり思っていたので、殺処分と聞いてショックを受けましたが、飢えや渇き、風雨、炎天などから解放されるとはいえ、自然からあまりにもかけ離れた狭小施設に閉じ込められて死ぬまで常同行動を繰り返す日々が、果たして本当に殺処分よりマシなのか。それでサルたちを救ったと言えるのかということを考えると、個人的にはとてもそうは思えず、この問題に着手して以来ずっと悩み、自問自答してきました。
日本にサンクチュアリと呼べる収容施設が存在しない現状においては、本当に苦痛の少ない安楽死であるならば、むしろそちらを望む気持ちもあっただけに、今は複雑な思いでいます。
私が今回の件で最重要視していたのは、捨てザルとも言えるあのサルたちについて、とにかく生きてはいるんだからといって見て見ぬふりをすることはもうやめて、50年間にわたる苦難の歴史に終止符を打たせることでした。
当初は繁殖制限処置をして大根島で最後の一代を全うさせることを提案しましたが、そもそも伊豆クルーズに飼養の継続の意思がないこと、また、外来種と立地の問題から環境省からも否定され、結局、殺処分という流れに至っています。
殺処分方法も含めて、これから確認・要望しなければならないことは多いので、また報告したいと思います。
環境省への質問書
2012年5月、環境省より、今月から大根島のタイワンザルの捕獲・殺処分が開始されるとの連絡を受け、取り急ぎ以下の質問書を送付しました。
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2012年5月7日
環境省自然環境局野生生物課外来生物対策室 御中
静岡県南伊豆町大根島のタイワンザル殺処分に関する質問書
定非営利活動法人 アニマルライツセンター
東京都大田区大森北4-18-13第二伊藤ビル201
前略
数年前より相談させていただいております静岡県南伊豆町大根島のタイワンザル問題ですが、昨年暮れに電話で近況を尋ねた際、殺処分が決定したとのお話を伺いました。それまでは、伊豆クルーズ、環境省、それぞれから展示施設に収容という計画を伺っていたため、非常にショックを受けましたが、飢えや渇き、風雨、炎天などから解放されるとはいえ、自然からあまりにもかけ離れた狭小展示施設に死ぬまで閉じ込められる日々がサルたちにとって幸せであるはずもなく、私たちは一概に殺処分という選択を否定するつもりはありません。しかし、人間のエゴの犠牲になり続けた悲劇の50年間の終焉は、あくまで恐怖と苦痛の少ない方法によるべきであり、その監視と検証、報告がなければ、サルたちは単に闇から闇へ処分されてしまうだけで、関係者や国民に何の反省も教訓も提示できません。また、大根島は国立公園の一部であることからも、この問題の一部始終は広く国民に公開されるべきと考えます。
先日、いよいよ5月より捕獲・処分が実施されるとの連絡をいただきましたが、つきましては下記7点の項目につきましてご回答をいただきたく存じます。ご多忙中恐縮ではございますが、喫緊の事案であるため、誠に勝手ながら5月10日までにご回答をお願いいたします。(メールのご返信でも結構です)
草々
記
1.捕獲・殺処分の予定実施期間を教えてください。
2.捕獲・殺処分を請け負う業者名と、現場に立ち会う関係者の所属を教えてください。
3.捕獲・殺処分の具体的な方法、手順を教えてください。(薬剤名も)
4.捕獲・殺処分の映像記録を残してください。
5.これまでこの問題に関わった経緯から、アニマルライツセンターのメンバーを殺処分現場に立ち会わせてください。
6.死体の処分(引き取り先)について詳細を教えてください。
7.一連の作業の経費について教えてください。
以上
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補足
大根島サル問題につきまして、若干補足をしたいと思います。
野生動物問題ではなく、展示動物問題
ARCとの関わり
施設収容から殺処分へ変更
~伊豆クルーズの決定をめぐって~
~伊豆クルーズへの要望内容~
2010年1月に伊豆クルーズの担当者とお会いした際、以下の5点の要望を提出しました。
1.加森観光株式会社のグループ施設である伊豆バイオパークで全頭を引き取り、サルの生態にとって最高水準の施設の創設を検討してください。(参考 http://www.junglefriends.org/)
2.大根島での飼養継続が本当に外来生物法違反に当たるのか、再度環境省の見解を聞き、交渉してください。
3.安易に処分を選択することによる、貴社の社会的信頼に対するリスクを考慮した選択をしてください。
4.動物実験施設への譲渡、売却は行わないでください。
5.現在、大根島にいる10頭前後のサルに対して、適正な給餌・給水を直ちに行ってください。
大根島サル問題からの教訓
そのためにも私たちはこの件の顛末をマスコミなどを通じて広く明らかにして、動物を町おこしに利用しようとする企業や自治体に警鐘を鳴らし、既に存在している各種動物施設には反省と改善を促す一助にしたいと思っています
※動物園とは
反対する4つの理由(抜粋)
アニマルライツ
動物たちが神経に異常をきたし常同行動をしている姿もしばしばみられる。
人間の娯楽のために、動物園にとらわれた動物たちは、その動物が本来持っている全ての権利(自由や家族や自然)を全て奪われている。
種の保存はウソ
さらに近親勾配によって死亡率が通常の6倍以上高い種もある。囚われの身の動物における遺伝子的多様性の欠如が発生しており科学的にも種の保存とはいえないのである。
誤った知識を植えつける「教育」
また、動物の生態はその動物がしかるべき場所にあってはじめてわかること で、動物園の狭い範囲内では正確に知ることはできない。さらに、動物園と言う特殊な環境は、人は自然を支配し、動物は人に奉仕するために存在する道具なのだという間違った自然観を植え付ける危険性がある。
より質の高い、倫理的(人道的)娯楽が数多く存在する
※サンクチュアリとは
動物サンクチュアリとは、動物実験施設、動物園、畜産場、虐待現場などから保護された又は引退した動物を飼養する施設のこと。 施設は、5つの自由(国際的動物福祉の基準:飢えと渇きからの自由・不快からの自由・痛み,傷害,病気からの自由・恐怖や抑圧からの自由・正常な行動を表現する自由)はもちろんのこと、動物本来の欲求が満たされた施設である必要がある。
物理的、感情的、心理的に、できる限り最高の状態を保証し、生息地の自然に近い環境が提供される中、サルの場合は、木に登ったり、仲間と交友を楽しんだりできる環境である。また、管理スタッフから、愛情と献身的なケアを受ける必要がある。
いわば疑似動物保護区であり、動物園などの展示施設(たとえエンリッチメントが行われているものであっても)とは全く異なるものである。
さらに、動物園のようにコンクリートで囲まれていたり、無機質であったり、狭かったり、といった我慢を強いる環境であってはならない。