2023年6月1日の農林水産委員会での参考人質疑のなかで、石垣のりこ議員の「霜降り牛はアニマルウェルフェア的に問題はないか?」という質問に対し、アニマルウェルフェアの専門家として招かれていた新村参考人が「適切に飼育されているはず」「遺伝的なもの」と、アニマルウェルフェアの問題がないと回答しました。これは誤りです。霜降りを作るために行われる飼育のアニマルウェルフェア上の問題はいくつもあります。霜降り肉はどのように作られるのか動物にとって必須の栄養素であるビタミンAを摂取制限すること、そしてある時期に濃厚飼料を大量に与えること、生涯の多くの時間を運動をさせないことによります。ビタミンAは彼らの生涯約28ヶ月の中の中期に制限され、同時に濃厚飼料も大量に与えられ、草藁などの粗飼料は制限されます。和牛であっても、生涯放牧で、本来の食性である草を食べる生活をしていれば、筋肉に脂肪が交雑したA5ランクの霜降りには病気などでない限りならないのです。生涯を草をはみながらの放牧で育てていればいわゆるグラスフェッドと呼ばれる健康的な牛の状態になります。ビタミンAは動物にとって必須の栄養素ですがこれを制限されると霜降りがより深く入ると言われています。そして必須なのは穀物飼料です。牛は元々草を食べる動物です。つまり必要な栄養素は、濃厚飼料ではなく草や藁などの粗飼料。これを4つある胃で反芻しながら必要な栄養を得るのですが、穀物飼料をこれでもかと与えられ、栄養過多になっていきます。殺される直前の飼育方法はそれほど関係しておらず、12ヶ月を過ぎた頃から1年ほどの肥育期間にどれだけ多くの穀物飼料を食べさせるのか、によって脂肪が筋肉内に溜まっていくと言われています。霜降りになるのは遺伝ではない品種改変による和牛の特性により”霜降りになりやすい”といわれていますが、アンガス牛(純血種)なども霜降りがでます。いずれも穀物飼料を与えられる事が必要です。研究では和牛交雑種の場合霜降り自体には影響は出ないが霜降りの部位が大きいとしています。いずれにしてもこれらは穀物飼料給餌を行った結果であり、不自然な餌を食べさせることによって霜降りになりやすい遺伝的要素はあるものの、霜降りになるのは遺伝ではないと言えるのです。粗飼料が制限されることもまた、ビタミンA不足に拍車をかけます。粗飼料が得られず自然な環境で放牧されていなければミネラル不足に陥ることもあります。動物たちの苦しみ1:失明ビタミンAは動物にとって必ず必要な栄養です。ビタミンAが足りなくなると、正常な免疫機能、および眼の発達および視覚など体に様々な悪影響を及ぼします。牛たちの顕著な症状は、視力が低下していき、ひどければ失明することです。動物たちの苦しみ2:肺炎ビタミンA不足になれば免疫不全にもなるため、感染症にもかかりやすくなります。肉用牛の死廃頭数や疾患の中で最も多いのは呼吸器病であり、中でも肺炎が最も多く、その中でも細菌性肺炎が原因のほとんどを占めます。これにより死亡する牛もいるわけです。動物たちの苦しみ3:腸炎腸炎にも苦しみます。中でも最も多いのが感染性の腸炎です。感染症になるのは、ビタミンA制限や粗飼料不足によるミネラル不足だけの問題ではもちろんなく、環境が悪化していたり、ストレスが増加したり、その他の病気になり弱っていたりと様々な原因があると考えられます。それでも免疫を落とす栄養制限と穀物飼料過多は、その一つの要因になっていることは間違いがないでしょう。動物たちの苦しみ4:心不全肉用牛の死因の中で増加しているものの中に心不全があります。高エネルギーで高タンパクな穀物飼料をできる限りたくさん食べさせるという飼育方法自体にも問題があると考えられます。ビタミン A は粘膜の保護作用や体内活性酸素による酸化作用を防止することにより感染 防御に関与している。活性酸素は細菌感染防御や免疫細胞の接着を阻害する。ビタミンA、 C、E や亜鉛、銅、セレンなどは体内抗酸化作用を有する。細菌性の肺炎や心不全による肥育牛の死廃率の増加と、ビタミンAコントロールの普及とが時期的に重なっているようである。肥育牛の栄養と感染症―飼養管理と免疫の関連性を探る―木村畜産技術士事務所・日本獣医生命科学大学名誉教授 木村信熙動物たちの苦しみ5:乏しい環境そもそも霜降りにしようとしなくてもアニマルウェルフェアが低い飼育であることにかわりはないという事情はあるものの、少なくとも屠殺前数ヶ月までは運動を制限されています。屠殺前の数ヶ月は放牧されているケースも、オーストラリア産の霜降り牛や日本でもほんの一部あるようです。しかし、基本的に小さな囲いの中に大きな体の黒毛牛たちが数頭づつ入れられているというのが一般的な飼育方法です。まともな運動はできず、やることもなく、牛たちは舌遊びという舌を動かし続けるという異常行動を起こしやすくなります。中には1頭ごとに飼育されいるケースもありますし、鼻輪や首輪で繋がれ続けているという悲惨なケースもあります。このように、霜降り牛には多数のアニマルウェルフェア上の課題があるのです。ケージ飼育や全く方向転換もできない妊娠ストール飼育と比べればマシにも見えるかもしれませんが、身体的苦痛と精神的苦痛、両方が兼ね備えられた飼育が行われているなかで、適切な飼育とはとても言えないはずなのです。動物ごとにアニマルウェルフェアの配慮事項も問題も異なり、専門外の動物種であれば知らないことはあろうかと思います。国会に呼ばれた参考人の責任として知らなければ専門外だからわからないと答えるべきだったのではないでしょうか。なお、別の参考人が別の質問の中で、ビタミンA摂取制限による弊害を答えてくれています。せめてもの救いです。国会議員が誤った認識を得ていないことを願います。参考https://patents.google.com/patent/JP2004113216A/jahttps://www.jataff.or.jp/project/kourou/files/h28/28-1.pdfhttp://jlta.lin.gr.jp/report/detail/pdf/kokunai_h016-1520.pdfhttps://www.naro.go.jp/project/results/laboratory/karc/1999/konarc99-185.htmlhttps://www.akitakeizai.or.jp/journal/data/202010_zuisou.pdfhttps://www.pref.nara.jp/secure/34382/vitaminamituoka.pdfhttps://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010832952.pdfhttps://www.ibatiku.jp/?page_id=1469https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0022030246925246https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0022030247923874https://naldc.nal.usda.gov/download/IND43893902/pdfhttps://extension.missouri.edu/publications/g2058https://www.jica.go.jp/jica-ri/IFIC_and_JBICI-Studies/jica-ri/publication/archives/jica/field/pdf/2003_05e.pdfhttps://lpi.oregonstate.edu/jp/mic/%E3%83%93%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3/%E3%83%93%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3Ahttps://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000117203.htmlhttps://www.hopeforanimals.org/cattle/268/https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6039323/http://kachikukansen.org/kaiho2/PDF/1-2-059.pdfクリックして Twitter で共有 (新しいウィンドウで開きます)Facebook で共有するにはクリックしてください (新しいウィンドウで開きます)クリックして X で共有 (新しいウィンドウで開きます)Share This Previous Article城山公園のニホンザルの飼育、改善進む Next Article岡山県の料理旅館、湯原温泉 八景はケージフリー! 2023/06/06