Aquatic Animal Alliance(水生動物連盟)による原文を翻訳しました。日本語訳のPDF版はじめに本書は、Aquatic Animal Alliance(水生動物連盟)が世界中の専門家と協議した上で、養殖に用いられる動物に福祉的関与が最も必要であると特定した主要分野の概要を提供することを目的としている。より詳細かつ種ごとの勧告に関する情報は、本書の拡張版とその参考文献に記載されている。福祉に対する我々の考え方最先端の情報によると、歴史的にアニマルウェルフェアの議論から除かれてきた養殖されている一般的な水生動物の多くが、陸生動物に匹敵する苦しみの感受能力を保持していることが明確に立証されている1。このような理由から、養殖水生動物の福祉は、他の畜産動物の福祉と同様に調査され、関心を持たれるべきであり、養殖システムにおける福祉は、全体的にではなく、一頭ごとのレベルで見直されなければならない。飼育されているすべての陸生動物の基準である、福祉の「5つの自由」モデルは、水生動物にも適用されなければならない。我々の見解は、それぞれの動物が「生きる価値のある生涯」を経験するためには、下記を有さなければならない。健康と活力を維持するための食餌を得る自由2健全な生活状態を可能にし、またそれを損なうことのない適切な環境で生活する自由病気が予防され、外傷の過度の危険にさらされることのない環境で生活し、病気を迅速かつ適切に治療してもらう自由充分な空間の中で、自然な行動を発現するために必要な、仲間とのふれあいや資材のもとで生活する自由良好な心理状態を促進し、精神的な苦痛を避けられる状態で生活する自由最近の研究では、多くの水生動物は、プラス・マイナス両方の肉体的・心理的経験が可能であることが明らかになっている。したがって、AAA が設定した基準は、最悪な形の苦痛からの解放のみに焦点を当てるのではなく、起伏もあり本当に「生きる価値ある生涯」のために必要な発達の機会を水生動物に提供するために、福祉におけるプラス・マイナス両方の条件を含むものである3。養殖に対する福祉に基づいた取り組みは、養殖されている動物のあらゆるライフステージと、その生産に用いられる他のすべての種の健全な生活状態を考慮したものでなければならない。これには、掃除魚、飼料として使われる動物、そして供給連鎖に関わるその他のすべての生き物が含まれる。養殖に使用されるすべての動物の福祉への配慮は、繁殖から出産、屠殺、そして生産に使用されるその他のすべての動物に至るまで、生涯にわたって維持されなければならない。これには、繁殖動物、幼魚、掃除魚、飼料として使われる動物、そして供給連鎖に関わるその他のすべての知覚力のある生き物が含まれなければならない。基準は、種、ライフステージ、飼育環境に特化したものでなければならない。水生動物福祉の5つの柱1. 充実した環境環境エンリッチメントは、養殖水生動物の福祉において最も看過されている分野の一つである。自然な行動を発現するためには、水生動物は、種固有の動物行動学的なニーズを満たせる環境を、彼らが理想的な生息地において好むであろう暮らし方に類似した形で提供されなければならない。2. 飼料内容および摂餌どれだけの数の動物が他の動物に(飼料として)与えられているのかを正確に予測するのは、彼らの大きさや種の構成が大きく異なるために困難である。The Aquatic Life Institute(ALI、水生生物研究所)は、控えめに見積もっても、毎年1.2兆頭もの水生動物が、養殖の供給連鎖で使用されていると推定する4,5。飼料に使われる動物は、それぞれがその福祉を守ろうとする個人である。知覚力のある生き物として、苦痛を軽減するためには、陸生・水生動物や昆虫などの動物成分を削減および排除するなど、供給連鎖の中で飼料に使われる動物の数を最小限に抑えなければならない。昆虫やオキアミのように、小さく、一定の質量あたりの個体数の大きい種は、決して飼料として使用すべきではない。このためには、生産者は可能な限り、代替飼料製品の使用、より高い飼料効率比(良好な栄養と健康を維持しながら)、肉食性の養殖種から草食性種への置き換え、抽出種、および動物とその飼料が同時に生産されるシステムの方向に向かわなければならない。適切な給餌は、良好な福祉にとって不可欠である。不充分な量の飼料や、食することのできない形態の飼料(例:過度に大きなペレットや、小さなの魚が競争に敗れてしまうような場所での給餌)は、健康と福祉の悪化につながる可能性がある。飼料を与えすぎると水質が悪化し、その結果、健康と福祉に影響を及ぼす可能性がある。生産者は、養殖場のすべての魚が食することのできる適切な飼料配合を、適切な量で提供するように努めるべきである。断食期間は、絶対的に必要な場合と獣医の助言を受けた場合にのみ用いるものとし、72時間を絶対的な最大限とする。3. 空間的要件および飼育密度種とライフステージに適した飼育密度レベルを維持し、身体面、心理面、行動面への悪影響を避けなければならない。生産者は、種のニーズを反映し、一頭あたりの総遊泳可能水量を増やすよう努めなければならない。4. 水質酸素と二酸化炭素のレベル、pH、温度、濁度、塩分、アンモニア、硝酸塩を含む(これらに限定されるものではない)主要な水質パラメータは、継続的に、または少なくとも1日1回監視しなければならない。水質の評価は、水質の悪化が検出された場合の行動計画と組み合わせる必要がある。5. スタニングおよび屠殺すべての動物は、屠殺前に効果的なスタニングを受けなければならない。世界動物保健機関(OIE)の「水生動物衛生規約」(2010年)に従うことが推奨される。スタニングに使用される方法は、それぞれの種に適切である必要があり、水生動物を即座に完全に(つまり、科学的に検証された方法で1秒以内で)無意識の状態にすることであり、動物を静止させるだけではない。死亡する過程において、意識の回復が伴うものであってはならない。即座に不可逆的な気絶状態を達成するために、すべてのスタニングおよび食肉処理装置は、処理される特定の種と動物のサイズに合わせて適切に調整する必要がある。意識回復の可能性を最小限にするため、スタニングから屠殺までの時間を最小限に抑えなければならない。スタニング+屠殺の同時の方法(例えば感電死)が好ましいが、スタニング直後に即座に斬首される手順は許容される。氷の中での窒息、塩の利用、CO2またはアンモニア浴は使用してはならない。その他考慮事項輸送及び取扱い手で触れることが必要不可欠である場合は、取り扱う水生動物と他の水生動物の両方に対して、ストレスと妨害を最小限にとどめて行わなければならない。取り扱いは可能な限り最短時間で行う必要があり、取り扱いが数秒を超えると予想される場合は麻酔薬を使用する必要がある。すべての新しい施設では、輸送と取り扱いを減らすために、現場で屠殺を行わなければならない。これが不可能な場合、屠殺前の輸送と取り扱いは可能な限り制限されなければならない。健康:寄生虫管理、日常的な切断、抗生物質を含む治療養殖水生動物は、病気や寄生虫にさらされることが多い。福祉への影響を最小限にするため、病気や寄生虫に対する効果的な対策こそが最初の防衛策となるべきである。寄生虫の除去に使用される方法は、厳格な科学的福祉文書に準拠する必要があり、このプロセスで使用されるすべての動物の福祉への悪影響を減らすための措置を講じる必要がある(たとえば、フナムシの処理に使用される掃除魚の福祉)。エビ養殖での繁殖目的の眼柄切除の実施、または誤った取り扱いによる一般的なひれの損傷などの日常的な動物の切断は、いかなる場合でも決して許可されるべきではない。ワクチン接種が必要な場合は、動物に麻酔をかけることで苦痛を最小限にし、認定された獣医師または適切な訓練を受けた動物の健康における専門家のみが実施するものとする。AAAでは、日常的な又は予防を目的とした抗生物質の投与に反対する。しかし、飼育下の動物の苦痛を改善するために必要不可欠とされる場合は、感染予防のために抗生物質を使用することは例外とする。6福祉指標および充分な訓練上記を監視する福祉指標は、種、ライフステージ、飼育環境に固有のものでなければならない。現在の最良実施例である実証に基づく行動的および生理学的福祉指標を用いる必要がある。福祉の心理的側面を測る養殖場での手順は、科学的に検証され利用可能になり次第、必須とされなければならない。上記の基準を実施および監視するすべての従業員は、充分な訓練を受けなければならない。データを基にした手法これらの推奨事項はすべて、現在の最良の科学に対応する必要があり、生産者は水生養殖における最良実施例の知識を積極的に拡大して共有するよう努める必要がある。動物の福祉に関するデータを入手可能にすることは、民間施設で生成されたデータを含め、公共の利益となる。すべての養殖場は、管理するすべての動物の病歴、治療、輸送、致死率、死因を記録及び保持する必要があり、それらの記録を積極的に利用することで、生産における状況を改善しなければならい。捕食者の殺害と野生生物への影響捕食者を殺す制御方法は、絶滅危惧種として記載されているかどうかに関係なく、どの種においても使用してはならない。害を与えたり致命的となる管理方法は禁止されるべきであり、予防策を促進するべきである。病気の感染や野生魚の遺伝的希薄化を含め、養殖場のバイオセキュリティを守るためのあらゆる努力を払う必要がある。署名団体Aquatic Life InstituteAnimal EqualityAnimal Rights Center JapanCompassion in World FarmingDyrevernalliansenEssere AnimaliFish Welfare InitiativeThe Humane LeagueMercy for Animals“Pain in aquatic animals” Sneddon, L, Journal of Experimental Biology, 2015.通常、「freedom from-(~からの自由・解放)」と表現されるが、我々は、これらの自由を「freedom to(~をする自由)」として再定義した。“Positive Welfare for Fishes: Rationale and Areas for Future Study” Fishes 2019, 4, 31. Fife-Cook, I. & Franks, B.“Positive animal welfare states and encouraging environment-focused and animal-to-animal interactive behaviours” Mellor, 2013.“A review of animal welfare assessment, focusing on ‘positive’ welfare” Mellor, 2015.“A new animal welfare concept based on allostasis”, S. Mechiel Korte, Berend Olivier, Jaap M. Koolhaas, Physiology & Behavior, Volume 92, Issue 3, 2007, Pages 422-428.“ ‘Blue Loss’, estimating how many aquatic animals are hidden in the food system”, Borthwick et. al., Aquatic Life Institute, 2020. Available at: https://tinyurl.com/BlueLoss“Estimate of numbers of fishes used for reduction to fishmeal and fish oil, and other non-food purposes, each year”, Mood & Brooke, 2019.我々は、WHO(世界保健機関)が人間の医学にとって非常に重要であると見なした抗生物質の使用にも反対する。日本語訳はボランティアのHarukaさんとMisakiさんからご協力いただきました。クリックして Twitter で共有 (新しいウィンドウで開きます)Facebook で共有するにはクリックしてください (新しいウィンドウで開きます)クリックして X で共有 (新しいウィンドウで開きます)Share This Previous Article福の樹、ほっこりかふぇ はケージフリーでエッグスマート Next Article様々な場所で不適切に飼育される猿:改善のヒント 2021/01/21