日本人はエビを食べるのが好きだ。その消費の多くを輸入に頼っており、エビの輸入量は世界で四番目多い。Global shrimp industry – the Indian dynamics 10/23/19 2019年、日本は221,650トンのエビを、タイ、ベトナム、インドネシア、中国などから輸入した。GLOBEFISH – Information and Analysis on World Fish Tradeエビは天然だけではない。1970年代に大規模な商業エビ養殖が始まって以来、エビ養殖は増え続け、世界で生産されたエビの55%にも達している。https://www.worldwildlife.org/industries/farmed-shrimp養殖されるエビのほとんどはクルマエビ科で、ブラックタイガー、クルマエビ、バナメイエビだ。スーパーで見たことがある人もいるだろう。寿司のネタ、エビフライで食べている人も多いはずだ。エビ消費拡大とともにエビ養殖は増加してきたが、その裏には大きな犠牲がある。エビ養殖池を作るためにマングローブの林が切り開かれ、その付近の生態系が破壊されている問題について知っている人は多いだろう。だがエビの養殖のために、繁殖用のメスのエビが片目を切断されていることは知っているだろうか?エビの眼の切除下の画像は、FAOのエビ孵化場のマニュアルだ。PREPARATION OF BROODSTOCK FOR SPAWNINGマニュアルにはこの手技の方法として「かみそりの刃を使用して、目を切り開いてから、親指と人差し指で基部から眼柄(頭と離れている目と、目と頭を繋いれいる組織)を絞り出す」か、「または指だけを使用して、目を破り絞り出す」が提示されている。この目の切除はエビ養殖では一般的な慣行で「eyestalk ablation」と呼ばれる。焼灼(加熱したブレードまたは鉗子で眼の茎を切る)や、結紮(眼の茎の周りに糸またはワイヤーを結んで数日後に脱落させる)という方法が行われることもある。Animals Australia Female prawns in prawn farms have their eyes sliced open or cut off甲殻類を、生きたままで熱湯に投入したり、焼いたり、蒸したりすることが一般的な日本では、まだあまり知られていないが、甲殻類は痛みを感じることができる。それゆえに、諸外国ではロブスターの下半身を生きたまま切断していた会社が有罪判決を受けたような例もあるくらいだ。目を切開されたり、結紮されると、エビはどちらの方法でもうろたえ、尾を叩き(逃避反射)、外傷を受けた領域をこするという、痛みに関連する行動が見られたそうだ。Animals Australia Female prawns in prawn farms have their eyes sliced open or cut off別の研究では、眼の切除前に麻酔を投与して、摂食行動、水泳行動を観察したところ、ストレス反応が減少したというものもある。Minimizing the effects of stress during eyestalk ablation of Litopenaeus vannamei females with topical anesthetic and a coagulating agent April 2004これらは、エビが目の切除で痛みを経験する明らかな証拠だろう。 これらの研究を持ち出すまでもなく、生きたエビの目の切除するという行為にはぞっとする。このような残酷なことが行われる理由はいったいなんなのだろうか?たくさん卵を産ませるため眼の切除は、多くの卵を得るために実施されている。メカニズムは明らかにはなっていないが、眼柄の部分には生殖腺抑制ホルモン(GIH)があり、これを根こそぎ取り除くことで卵巣の成熟が促されるという考えが一般的だ。自然界でのエビの卵巣の発達とは異なり、飼育下では、エビの卵巣は普段通りに、後期の卵巣成熟に達しないという。Insights into Eyestalk Ablation Mechanism to Induce Ovarian Maturation in the Black Tiger Shrimp September 7, 2011 それはそうだろう。自然界でならメスのエビは、環境要因をみて本能で繁殖期を決定する。だが多くのエビ養殖は、集約的で飼育密度が非常に高く、 その高い飼育密度は病気の原因にもなるような環境だ。Technologies shaping the future of shrimp SHRIMP 2019 とてもメスのエビが繁殖したくなるような環境ではないだろう。エビの目の切除は、つまり、劣悪な環境に閉じ込められて、繁殖したくないメスのエビに無理やり繁殖させるために行われている手技だということだ。動物の飼育環境の改善ではなく、動物の体の一部を切断して対応しようとするのは、工場型畜産でよく見られる光景だ。豚の尾・歯の切断や鶏の嘴の切断と同じだ。水産養殖認証(エコラベル)にアニマルウェルフェア しかしエビの目切除は・・眼の切除というとんでもない手技がまかり通っている水産養殖業界だが、水産庁も推進している水産エコラベルの普及とともに、養殖業界にもアニマルウェルフェアは浸透しつつある。水産養殖認証の基準にアニマルウェルフェアが含まれているからだ。(認証制度には、天然と養殖があるが、ここでは養殖について言及する)世界中には数多くの水産養殖認証があるが、養殖認証はFAOのガイドライン(Technical Guidelines on Aquaculture Certification)に則って作られている。ガイドラインには「動物の健康とアニマルウェルフェア」の項目があり、水生生物のストレスを最小限に抑え、病気のリスクを減らし、健康とアニマルウェルフェアを保証することや、OIE水生動物衛生規約(アニマルウェルフェア基準が含まれている)に従うことなどが求められている。そのため各認証制度でもアニマルウェルフェアは基準の一つとなっている。日本で活用されている主な水産養殖のエコラベルは、ASC認証(オランダ)、MEL認証(日本)だが、これもいずれもアニマルウェルフェアは基準の一つとなっている。だが残念ながら「海老の目の切除」は認証の要件にはなっていない。エビの目を切除しない方向へだが国外の水産養殖認証制度 Best Aquaculture Practices*のように、エビの目の切除について次のような基準を作っている認証もある。BAP Standards & Guidelines 「目の切除のような手技は動物の苦痛を最小限に抑える手順を設計する必要があります。 侵襲的手順は、実行可能な非侵襲的代替手段が利用できない場合にのみ使用されます。」*責任ある養殖を推進することを目的として1997年に設立された国際的な非営利の業界団体グローバルアクアカルチャーアライアンス(GAA)が開発EUの有機の基準では10年以上前から眼の切除は禁止している(Reg.889/2008, Annex XIIIa, section 7)。 また、認証団体の中にはエビの目の切除を基準に加えるか検討してきたところもある。企業の中にも飼育環境をコントロールすることでエビの目を切除しないで繁殖を行っているSeaJoy Navigate Sustainable Non Ablation や、バイオテクノロジー技術を用いることで、エビの目の切除を行わないCP Foodsのような会社もある。Sustainability Report 2019 さらに輸入に比べるとわずかだが日本国内でもエビの養殖は行われており、その国内でも代替法に切り替えを検討する動きがある。おそらく遠い将来には、エビの目の切除は廃止されるだろうと思う。しかし完全に切り替わるまでには時間がかかり、その間エビは目を切除され続けることになる。消費者の選択目の切除と言う暴行を防ぐのに、代替法の普及を待つ必要はない。 エビの消費を減らす、あるいは食べなければよい。そもそも「エビの目の切除」は大量消費に応えるために産みだされた手段であり、この問題の大きな要因は、エビを食べ過ぎるということにあるからだ。養殖ではなく天然であればいいという問題でもない。天然のエビの乱獲、海の生き物を根こそぎすくうエビのトロール漁、それによる混獲、こういった問題を防ぐものとして登場したのがエビ養殖なのだ。しかしそのエビ養殖も養殖池のための生態系破壊へと繋がっている。何をやっても堂々巡りだ。消費を大幅に減らす、食べないというのが唯一の解決策であることに疑いはない。エビに替わる、持続可能で苦痛を伴わないタンパク源は、植物由来のものにいくらでもある。 どうしてもエビの味が恋しいという人は、近年の代替肉、培養肉市場の拡大に期待してもいい。先日中国のスタートアップZhenmeatは、新製品として、植物性の「海老」を発表したし、シンガポール政府から助成をうけたShiok Meatsは甲殻類の培養を研究している。今後選択の幅は拡がっていくはずだ。エビの苦しみを減らせるかどうかは、私たち一人一人の選択にかかっている。SUSTAINABILITY Vegan seafood: The next plant-based meat trend? Chinese Beyond Meat rival launches plant-based pork and crayfish to feed the home-market appetite PUBLISHED THU, JUN 18 20202:03 AM EDT写真/FAO Aquaculture photo library P. monodon: ablation of eyestalk to induce gonads maturationエビの目の切除参考世界海老データ https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/e-minato/articles/75790ASC養殖エビ認証 ASC-Shrimp-Standard_v1.1_Final.pdfMEL養殖認証 https://www.melj.jp/certifications水産エコラベル 水産エコラベルの普及・推進について 水産庁 水産エコラベルをめぐる状況について 水産庁INSIGHTS INTO USE OF NON-ABLATED SHRIMP Litopenaeus vannamei IN COMMERCIAL SCALE HATCHERIES Simão Zacarias*, Stefano Carboni, Andrew Davie and David C. Little Expert Group for Technical Advice on Organic Production EGTOP Final Report On Aquaculture (Part B) The EGTOP adopted this technical advice by written procedure in July 2014クリックして Twitter で共有 (新しいウィンドウで開きます)Facebook で共有するにはクリックしてください (新しいウィンドウで開きます)クリックして X で共有 (新しいウィンドウで開きます)Share This Previous Articleアニマルライツチャンネル[採卵鶏の最後の1日]ゲスト堀越啓仁議員 8月13日20:30~ Next Article本格イタリア料理店、パンツェロッテリアはケージフリー 2020/07/22