粘着シートのネズミ捕りは、捕らえられた動物を長時間にわたり苦しめじわじわと殺す残酷な駆除方法のため、諸外国では禁止している国や企業もあります。使いやすい、処理が楽という人の都合だけを考え、動物への配慮のないもの、それがこの粘着シートです。
「粘着シート」にかかったネズミはすぐには死にません。最大で5日かかります。その間泣いて、逃れようともがき皮膚や毛がはがれ、血を吐いて苦しみます。下を向いた状態で貼り付けられた場合は徐々に窒息死します。この罠にかかったねずみは自分自身を解放するために自分の手足を噛むことさえあります。
粘着シートを仕掛けた人は、捕らえられて泣くねずみの声にどうしてよいかわからず、死ぬまで放置するか、そのままパタンとシートを閉じてゴミに出します。
捕らえられたねずみは体のダメージ、ストレス、失血、飢えと渇きでじわじわと死んでいきます。
粘着シートにかかったネズミはあまりに激しいダメージのため、そこから救いだしたとしても生き延びることが難しく、足だけが粘着シートに引っかかり何とか逃げ出せた場合でも、粘着シートが足に絡みつき動けなくなって衰弱して死に至ることもあります。
ほかの動物も犠牲に
ねずみだけでなく他の動物が粘着シートの犠牲になります。
下の写真は2017年12月に日本で撮影したものです。
モズの下にスズメもかかっています。自治体の鳥獣保護担当に電話し、片栗粉を使用するとはがれやすいとのアドバイスを受け、モズは粘着シートからはがし、助けることができました。しかし、発見した時点で、スズメはすでに死んでいました。担当者の話だと、やはりネズミ捕りにかかる鳥は多いようで、このような問い合わせが多いそうです。
毒餌(殺鼠剤)
毒餌も非人道的です。数時間~24時間で死に至る急性の殺鼠剤も、4~5日で死に至る抗凝血性の殺鼠剤も同じです。急性殺鼠剤に使用される成分の一つである「シリロシド」はネズミを次のように死に至らしめます。
本罪は強い強心配糖体でこれを摂取したネズミは、しばらくして歩行変調ののち刺激に敏感になり、走り回ったりする回転性の痙攣を起こし、呼吸麻痺によって死亡する。
抗凝血性の殺鼠剤はじわじわと嬲り殺しにします。
本剤をマウスに投与すると、1回の投与ではかなり大量に耐えるが、少量ずつ連続摂取されると体腔や皮下組織などに浸潤性の出血を起こして死亡する。投与2から3日は外見上何の変化も見られないが、体内では徐々に出血が起こり、4から5日間連続投与するとその後摂取しなくても動きが鈍くなり耳や四肢が白くなって死んでしまう。
箱ワナ
ねずみへのダメージが少ない方法としてボックスタイプの罠があります。ネズミを殺さないという点で人道的ですが、罠に捕らえられたネズミはストレスで苦しみます。少なくも一時間に一回見回りをしてください。また通販サイトなどでボックスタイプのワナが多く販売されていますが、ねずみを傷つけるおそれがないか、ボックスの中にねずみが入り、バネ式のスプリングドアが強い勢いでしまった時にネズミのシッポを切断してしまうことを避ける設計になっているかも確認してください。
生きたままネズミを捕らえた場合は、この後どうするかも問題になります。ねずみは自分のテリトリー以外の見知らぬ場所では餌や水、住処を見つけることができず病気になったり衰弱したりして死に至ることもあります。放すときは発見した場所から約90m以内に放してください。またボックスに入っているネズミを移動させる時にはタオル等をかけて目隠してネズミのストレスを減らしてあげてください。
密集した市街地で放す場所が無く、麻酔剤の過剰投与などによる安楽殺を検討される人もいると思います。その場合はお住いの役所や保健所に聞いてみてください。ただ、ねずみの安楽殺を引き受けてくれるところはなかなかないかもしれません。捕らえたネズミをどうすればよいか相談しても「水没させてください」「2.3日そのままにしておけば餓死します」というのが保健所の対応です。「害獣」扱いされているねずみに法的な権利はないと解釈され実質どのような殺し方も許されているのが現状です。
最寄りの動物病院にねずみの安楽殺をしてもらえるか相談してみるのも一つの方法だと思います。
ねずみを防ぐ、人道的で確かな方法
粘着シートや殺鼠剤でネズミを殺し続けても異常なスピードで繁殖するネズミを防ぐことはできません。殺鼠剤に耐性を持ったスーパーラットも増えています。殺してもいたちごっこにしかなりません。
ねずみを防ぐ唯一の効果的な方法はネズミと人の住処をわけるということしかありません。人の住処に入り食べ物を得ることができるからネズミは増えるのです。大事なのはネズミが入ってこないように対策をするという基本的なことです。
- 進入口を塞ぐ。小さなねずみだと 1~2 センチ程度の隙間からも入ってきます。ドアの隙間、台所のパイプ周りの隙間、エアコンのパイプ周りの隙間、換気扇、床下換気口、家の壁や基礎部分の隙間を徹底的にチェックしてみてください。ホームセンターにはひびを補修し隙間をふさぐさまざまな材料が売られています。シーリング、パテ、モルタルで埋め、埋めることができない場所や広い範囲は金網でふさいでください。アルミだとネズミは齧ってしまうので、ステンレスなどの強度の高いものを使ってください。ネズミの通り道はネズミの油で黒くなっています。ネズミが齧ったあとがある場所や小さな米粒大の糞(クマネズミの糞)あるいは小豆大の糞(ドブネズミの糞)がある場所はねずみがどこを通り道にしているかを特定するのに役立ちます。
- 食べものを片づける。パンクズなども散らかしたりせず、きれいに片づけてネズミが食べ物にアクセスできないようにしてください。テーブルの上等において置く場合は食べ物はネズミが齧らない容器に入れ、ゴミ箱もしっかりと蓋をしてください。ペットフードも置いたままにしないようにしてください。
- 隠れ家をなくす。家周りの草を刈りこみネズミの隠れ場所を減らしてください。使っていない植木鉢や木材、バーベキューセットなどのアウトドア用品もネズミの隠れ場所になります。家から離れた場所に収納するようにしてください。
もし家の中に出ているのがクマネズミ*であれば、彼らはとても警戒心が強いため様子が変わることで逃げ出すこともあります(センサーで光が出る器具を設置するなど)。またネズミは嗅覚の優れた動物です。アンモニアやハーブと言ったネズミの嫌う臭いで家の中に入ってくるのを防止する手もあります。
*日本の家屋で見られるネズミは、ドブネズミ、クマネズミ、ハツカネズミの3種類です。多いのはクマネズミといわれていますが、他のネズミの可能性もあります。糞の大きさでネズミの種類を推定できます。ドブネズミ>クマネズミ>ハツカネズミの順で体が大きく、体の大きさに比例して糞も大きくなります。ドブネズミが10mm~20mm、クマネズミが6mm~10mm、ハツカネズミが4mm~7mm。
ねずみには本当に法律が適用されないのか?
粘着シートで捕らえられたネズミや殺鼠剤を食べたねずみは拷問とも言っていい苦しみを経験して死に至ります。箱ワナで捕らえたネズミは水没や餓死で殺されます。ねずみを安楽殺できないのか自治体に問い合わせても、ネズミは「害獣」で鳥獣保護法(鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律)や動物愛護管理法(動物の愛護及び管理に関する法律)の対象になっていないと判で押したような答えが返ってきます。
たしかに「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」でドブネズミ、クマネズミ、ハツカネズミは環境衛生の維持に重大な支障を及ぼすおそれのある鳥獣(法第八十条第一項)として同法の対象から除外されています。
しかし「動物の愛護及び管理に関する法律」や、同法に基づく「動物の殺処分方法に関する指針」の対象からも除外されているとは必ずしも言えません。この法律は人の純粋に野生下にある動物は対象としないものと解釈されているからです(動物愛護管理業務必携参照(2016年版))。いったん捕まえて粘着シートや箱ワナに保定した以上、人の占有下にあるとみなされ同法、指針が適用されると考えることもできます。
同法、指針が適用されるのであれば、このような苦しめる殺し方は法令に反するものといえます。
動物の愛護及び管理に関する法律 第四十条には、動物を殺さなければならない場合には、できる限りその動物に苦痛を与えない方法によつてしなければならない。と記載されているからです。
粘着シートタイプのねずみ捕りを禁止している国や企業
非人道的な粘着シートは諸外国で廃止が拡がっています。
- オーストラリアのビクトリア州が使用を禁止
- 2015年1月1日、ニュージーランドが販売と使用を禁止
- グーグルをはじめ、企業、銀行、大学、空港など247の会社が使用を中止。69の会社が販売を中止。(Join the Campaign Against Glue Traps)
- 2021年5月、イギリスは「動物福祉のアクション計画」の中で、ねずみ等用の粘着シートの使用を見直す意思を示した。Policy paper Action Plan for Animal Welfare Published 12 May 2021
- 2022年1月、スコットランドは動物福祉委員会の検討を受け禁止を決定
- 2022年4月、イングランドは粘着性罠の禁止を決定し2年後に施行
- 2023年カリフォルニア州ウエストハリウッド
- インドの18の州と準州で禁止
- ニュージーランドでは販売と使用が禁止
- アイルランドではそもそも許可されていない=禁止
- アイスランドでは粘着罠とバケツなどで溺れさせる罠が禁止
Glue traps can cause immense suffering to rodents and other animals
We’re introducing the Glue Traps (Offences) Bill which will ban the use of glue traps to catch rodents
Read more: https://t.co/H24BmCUduZ #ActionForAnimals pic.twitter.com/6L5YFjC6ZT
— Defra UK (@DefraGovUK) June 16, 2021
ネズミのために意見しよう
粘着シートを使用している会社、また自治体によっては市民に粘着シートを配布しているところがあります。そのような場合は辞めるように意見してください。
ネズミにも鳥にも人同様に心があり、生命の愛の神秘によって大切な”我が子”としてこの世に生まれた過去があり、家族や仲間がいて、生きる喜びを感じることもできる感情があるのは想像に容易い。
この写真を見ているとそんな感情が伝わってきて非常に非常に胸が締め付けられる想いになりました。