2017年7月9日から9月10日まで放送されたフジテレビ『警視庁いきもの係』では、スコティッシュフォールドがレギュラー出演した。耳が前に垂れ下がっていることが特徴的な猫だ。 見た目の「愛らしさ」からブリーディング(繁殖)が行われ、日本では100,000~300,000円で販売されている。 スコティッシュフォールドの抱える遺伝病1961年にこのタレ耳猫の「愛らしさ」に目を付けられ、繁殖登録が開始されたが、GCCF(イギリスの血統猫の登録機関:Governing Council of the Cat Fancy)は1970年代初めにスコティッシュフォールドの登録を禁止するにいたった。理由は遺伝病だ。そもそも耳が折れ曲がっているのは、軟骨が正常でないからであり、その「特徴」は全身に影響を及ぼす。スコティッシュフォールドが遺伝的にかかえる「骨軟骨異形成症」を発症すると、あらゆる軟骨に瘤を作らせ、四肢を腫れ上がらせ、潰瘍を作らせる。発症したスコティッシュフォールドは抱きかかえると嫌がることもあるそうだ。体中が痛むからだ。 UFAW(動物福祉大学連盟:The Universities Federation for Animal Welfare)によると、この病気の治療法はないそうだ。■耳折れのすべての猫は骨軟骨異形成症をもち、両親とも耳折れの場合産まれてから早い段階で関節炎を発現させ、片親のみが耳折れだった場合はそれよりも関節炎がゆっくり進行する傾向がある。■この病気の猫は、短く広い手足、柔軟性のない尾が著しく変形するかもしれない。彼らは、跛行、関節の腫れを示して歩行異常を持ち、ジャンプにも消極的だ。重症になると歩くことができなくなる。■両親が折れ耳の場合は、激しい痛みを伴う体の変形と壊滅的な関節疾患を引き起こす。この場合、生涯の早い段階で安楽殺されることが多い。片親だけが折れ耳の場合は症状が穏やかな場合もあるが、やはり痛みや傷害を伴う重大な関節疾患を伴うこともある。(引用:UFAW Genetic Welfare Problems of Companion Animals) 唯一の問題の解決方法は「繁殖の停止」■UFAWのサイトには「この問題に終止符を打つ方法は、耳折れ猫との繁殖を停止させることだ」と書かれている。■オーストラリアのビクトリア州では「疾患を引き起こす遺伝欠陥を有する動物の繁殖のための行動規範」(Code of Practice for the Breeding of Animals with Heritable Defects that Cause Disease)のなかで事実上スコティッシュフォールドの繁殖は禁止されている。■スコットランド政府は、スコティッシュフォールドの繁殖禁止を検討しているという*。■片親だけスコティッシュフォールドではない猫にしても意味がない。どのような組み合わせにしてみても、折れ耳の猫は遺伝病を保有することになるからだ。 英国獣医師会(BVA)のMs Ravetz氏次のように言う。 「この折りたたまれた耳の外観を持つすべての猫は、遺伝的変異を持つことになります。」 「彼らは病気の進行速度が異なる可能性がありますが、不治の痛みと病気を持っています。我々は、これらの問題を持つペットを繁殖するべきではありません。」■朝日新聞のWeb「Sippo」(2017.7.24)にはスコティッシュフォールドの繁殖は動物愛護法違反だと掲載されている。 動物愛護法では「動物取扱業者が遵守(じゅんしゅ)すべき動物の管理の方法等の細目」が定められている。細目の第5条第3項のイにはこうある。 「販売業者は(中略)遺伝性疾患等の問題を生じさせるおそれのある組合せによって繁殖をさせないこと」 見た目を追求した選択的繁殖で苦しむ動物たちかわいらしいやカッコいい、見た目が特徴的なペットを作り出すために行われる、選択的繁殖は動物を苦しめる。スコティッシュフォールドが良い例だが、猫よりもっと、選択的なブリーディング、近親交配が行われている犬では何百種類もの遺伝病が確認されている。たとえばキャバリアは、脳の大きさが頭蓋骨より大きくなる遺伝病を抱えており、安楽死せざるを得ない飼い主もいるそうだ。その痛みは想像に余りある。2017年7月にはNEWSWEEKJapanに「ジャーマンシェパード2頭に1頭が安楽死 見た目重視の交配の犠牲に」という記事が掲載された。人間の好みに合わせて交配をした結果「異常な傾斜のある背中や攻撃性、そして関節炎やガンといった病気に苦しむ割合が、他の犬種よりも多かった。生まれてきたジャーマンシェパードの2頭に1頭が歩けないので安楽死させられる。」という。 フジテレビ「警視庁いきもの係」へ意見をこの番組を見て、スコティッシュフォールドの人気があがり、買い求める消費者が増えるのではないかということを危惧する。売れれば繁殖され、産まれたことで苦しむ動物を増やしていくことになる。インターネットでざっと検索するだけでもスコティッシュフォールドの問題はたくさんヒットする。おそらくこの番組制作サイドは遺伝病の問題を知らなかったのであろう。しかし生きた動物を娯楽に使用するならばもっと慎重にあるべきだ。そもそも娯楽のために動物を利用しても良いのかという議論もおこなわれるべきだろう。 「警視庁いきもの係」第3話ではヘビが出てくる。番組で登場するヘビは体を伸ばすこともできない狭いケースに閉じ込められているが、主人公はヘビがペットに向いているという。「大きな蛇でもそれほど場所を取らないし散歩の必要もないし鳴き声も立てない」からだというのだ。しかし動物行動学的には「蛇は自分の体の長さより短い幅の檻の中では真っ直ぐに伸びる姿勢をとることができない。直線姿勢は腸の不快感を取るために必要な姿勢」なのである。長い蛇にそれだけのスペースを与えることは一般の家庭では容易なことではないだろう。安易に動物を利用し過ぎているのではないかという感が否めない。アニマルライツセンターは、スコティッシュフォールドの番組に使用することの社会的問題について、フジテレビに意見提出した。また番組での使用をやめることができないなら、テロップなどでスコティッシュフォールドの遺伝病について注意喚起するよう要望した。 フジテレビから回答をいただくことはできたが、注意喚起については今回対応することはできないとのことであった。しかし動物を今後起用する際には、こういった問題があるということを各部署に伝える、とのことだった。 皆さんからも意見を届けてほしい。 【意見先】フジテレビ視聴者相談センター https://wwws.fujitv.co.jp/safe/contact/ 警視庁いきもの係公式ツイッター https://twitter.com/mpd_ikimono警視庁いきもの係への意見 http://www.fujitv.co.jp/ikimono/message/BPO放送倫理・番組向上機構 https://www.bpo.gr.jp/?page_id=5464 * BBCNEWS Should Scottish fold cats be banned?2017.4.27クリックして Twitter で共有 (新しいウィンドウで開きます)Facebook で共有するにはクリックしてください (新しいウィンドウで開きます)クリックして X で共有 (新しいウィンドウで開きます)Share This Previous Articleウィンドレス鶏舎が増える日本、減る世界 Next Articleなんで岩山?日本の動物園のニホンザル 2017/07/25