人間は現代でもなお馬という動物を多方面に利用していますが、その現状はあまり知られていません。 しかし、アニマルライツにおける問題のほとんど全てに馬は関係しています。 日本における馬の利用とその問題点の一部をとり挙げたものですが、根が深くまた相互に関係しあっている馬の問題に関心を持って下さるきっかけとなれば幸いです。馬の利用の歴史第二次世界大戦中、馬は主に農耕や運搬、また軍用に使用され、日本の馬飼養頭数は150万頭に上りました。戦後は急速に数を減らし、しかもその大半を、競馬に使われる競走馬が占めるようになりました。 さらに近年は、地方競馬の衰退などで総飼養頭数が2004年には10万頭を切り、その後もなお漸減を続けています。 現在、馬の利用は大きく分けて、競馬、競馬以外の娯楽産業(乗馬、観光、サーカスや動物タレント、宗教行事など)、食用、その他に分類できます。 ここでは最も飼育頭数の多い競馬と乗馬および食用馬について現状をまとめました。競馬について日本における馬の飼養頭数は、2008年で約83,000頭。 そのうち2万頭余りが競走馬として各地の競馬場で走らされ、その他に競走馬として育成中の仔馬たち、その仔馬を供給するための種牡馬と繁殖牝馬などを含めると、競馬産業のために飼養されている馬が飼養頭数全体の半分以上となります。さらに競馬産業からから不要とされ脱落した馬たちが乗用馬や食用馬となっていくため、日本の馬の約8割は競走馬、または元競走馬だといえます。【競馬の問題点】馬を鞭打って走らせることは動物虐待であるという批判は、特に海外で強く主張されてきました。(そのためイギリスでは1競走について鞭を当ててよいのは10回までと制限されています) しかし、日本では馬の福祉に目を向けている競馬関係者・ファンはきわめて少なく、ギャンブルの道具とみなされて身体を壊すような無理な訓練やレースをさせられたり、馬房という密室で暴力を受ける馬さえも存在します。 もとより、ひたすら速く走らせるためだけに仔馬を産ませ育成すること自体が虐待です。 そのうえ、育成馬のおよそ半分は競走馬になれずに、乗馬用の馬として引き取られた先で虐待を受けたり、食用馬として売られ屠殺されて馬肉となる運命です。 競走馬になれてもケガや病気のリスクが高く、走れなくなるとほとんど治療されることはなく、成績が上がらず引退させられる馬とともに行く末はやはり馬肉です。 引退馬の中には、繁殖用として残される少数の馬もありますが、ごくごく一部の人気馬やきわめてまれな優しい馬主に飼われている場合を除き、ゆくゆくは屠殺が待っているということは同じです。(種馬として日本に輸出されたアメリカダービーの優勝馬でさえ最後は殺されて馬肉になったと、2002年アメリカで大問題になりました)「競馬はロマン」などと宣伝されても、実態は馬という動物の搾取と虐待そのものです。乗馬について日本には乗馬クラブが大小1,000近くあり、大学等の馬術部などをあわせて乗馬人口は約100万人ともいわれるそうです。 ※いくら大衆化したといっても多すぎる数字ですが、乗馬人口の信頼できる統計は存在しません。 これに観光牧場などを含めると約17,000頭(2010年)の馬が乗用馬として飼われており、成績不振で競馬を引退する競走馬の受け皿でもあるとされています。 しかしそれは競馬界が表向きにいっていることで、毎年2,500頭もの引退馬を吸収できるほど、乗馬の需要は大きくないという疑問があります。つまり相当数の引退競走馬は、実は、乗馬になることなく廃用馬として直ちに家畜飼料や加工用として処分されているのが実態だそうです。「乗馬」が「馬の廃用」を意味する隠語として用いられることもあるというのは、そのためです。 乗馬の新たな利用法として、ホースセラピーなど、コンパニオンアニマルとしての利用が始まっています。【乗馬の問題点】日本には乗馬施設の開設・営業に関する法律はほとんど存在せず、わずかに2006年に改正された「動物の愛護および管理に関する法律」で乗馬クラブが届け出制になっただけです。 そのため知識経験見識が乏しい者でも自由に開設・営業できるため、馬にとってきわめて不幸なことが起きています。 経営者の営利主義や無知により、虐待ともいえる乱暴な扱いや不適切な飼育環境に苦しむ馬は決して少なくありません。 このあたりはペット産業とよく似た構造ともいえるでしょう。動物愛護管理法の不備です。巨大な動物であるため、老化、傷病などで乗馬に使えなくなった馬や経営不振で破綻したクラブの馬たちは、次の引き取り手を見つけることが非常に困難です。そのためここでも屠殺→馬肉という運命をたどることがほとんどで、引退して余生をのんびり暮らすという馬はきわめて稀です。食用馬について日本では馬肉用に飼養される馬も少しずつ減って2008年で約19,000頭、その多くが上記のような競馬や乗馬の廃用馬です。 しかし、それに加えて初めから食用専門に飼養される馬もありますが、国産馬はきわめてすくなくて、カナダなどから年間5千頭を超える馬が生体輸入され、熊本、青森、福島などの馬産地で肥育されます。 さらにアメリカ、カナダなどからは国産馬肉の数倍の量の馬肉が輸入されています。馬肉は食肉、加工食品やペットフードの原料、肉食動物の餌として消費されますが、コンビーフなど加工食品の原料としての需要が減少し、食肉としても熊本などの馬産地を除いてあまり一般的ではなく、馬肉の消費量は減り続け低迷しています。しかし近年、脂肪が少ない健康食などという宣伝文句で、高級食材として消費の巻き返しが図られています。【食用馬の問題点】競馬や乗馬、その他で役に立たなくなった馬のほとんどが、ポニーでさえも、食用・飼料用になっているということは、秘密にされてきたといってよいでしょう。 競馬や乗馬、さらに観光やサーカスを楽しむ人々が知りたいことではないからです。しかしほとんどの馬の末路は馬肉。散々働かされてきた馬たちが用済みになったとたん、すぐに連れてゆかれる馬肉産業界は、競馬や乗馬の産業廃棄物処理を担っているともいえるのです。 (熊本にある日本最大の馬の屠殺場でおびえる馬の様子が、2009年PETA により撮られたビデオによって明るみに出ました http://www.youtube.com/watch?v=EFG6aw_msHk )輸入馬肉についても、日本、フランス、ベルギーなどにがアメリカの馬肉を輸入し、結果的にアメリカのきわめて過剰な競走馬生産の余剰を引き受けていることが、自身は馬肉を食べる習慣のないアメリカの競馬産業を支えています。また、馬肉用の馬の飼養は畜産業であり、牛、豚、鶏などと同様に動物の福祉などあとまわしにされる状況であることはいうまでもありません。祭り・神事祭りや神事には馬を用いるものが多くあり、宗教行事・伝統行事といわれながら、実態は大衆娯楽として地域の観光資源となっています。ここでは祭りに用いられる馬の数が日本最多の「相馬野馬追」をとりあげてみます。例:【相馬野馬追】盛夏7月、南相馬市をはじめとする福島県浜通り北部の市町村から参加者が集まって行われる行事で、ハイライトは、鎧兜に身を固めた武士に扮したの男たちが500頭余りの馬に乗って駆け回る神旗争奪戦です。 勇壮な合戦絵巻と称えられますが、神旗を奪い合ってぶつかり合うためこの行事で傷つく馬の数は半端ではありません。 かつては自家の農耕馬に騎乗したといわれますが、現在は地元民が祭りのために飼っている馬と、乗馬クラブなどから借出す馬たちによって行われます。 その馬は競馬から引退させられたばかりかも知れません。 祭りが果て脚を折られたり傷ついた馬は治療されることなく、行く先はやはり屠殺場。 ある意味で馬の使い捨てともいえるこの神事を守る気持ちは、何なのでしょうか。なお、この地方では2011年の地震と原発の災害で、多くの人々が避難生活を余儀なくされていらっしゃいます。 2011年の野馬追は、行列、甲冑競馬および神旗争奪戦は中止、神事のみ行われ、参加馬は80頭だったそうです。総論馬たちのおかれた悲惨な現状は書ききれるものではなく、まして解決の難しさは気の遠くなる思いです。 しかしそうした中でも競馬や乗馬に使われて不用となった馬たちの命を救い、平和な余生を過ごさせようという活動も一部では行われています。 ARCの会員の中にもそうした活動を引き受け、日々努力していらっしゃる方たちがおられることをお伝えしてこのまとめを終わります。クリックして Twitter で共有 (新しいウィンドウで開きます)Facebook で共有するにはクリックしてください (新しいウィンドウで開きます)クリックして X で共有 (新しいウィンドウで開きます)Share This Previous Articleクマ胆汁農場からサンクチュアリに…130頭が救助。 Next Articleバタリーケージの卵を食べたくない!キャンペーン 2014/04/22