養殖における水生動物福祉に関する主要勧告に次いで、Aquatic Animal Alliance(水生動物連盟)による持続可能性との関わりについての原文を翻訳しました。日本語訳のPDF版はじめに以下は、水生動物のアニマルウェルフェアが持続可能性に果たす役割に関する報告書全文の概要であり、主に持続可能性を扱う部門における公的政策とその他の利害関係者に向けたものである。アニマルウェルフェアへの配慮が倫理面、環境面、その他の社会問題と密接に関係していることを示すこと、ひいてはその配慮が持続可能な発展を推し進めるための不可欠な政策であるべきであることを示すのが我々の目的である。きわめて集約的でありアニマルウェルフェアへの配慮が低い食料生産システムにおいては、その結果として劣悪な健康状態、そして、病気、抗生物質使用、死亡率、環境と生態系への悪影響が増加し、究極的には資源の効率化と生産性を低下させ、持続可能性とは反対の状態になっている。このことは、持続可能な発展のための政策にはアニマルウェルフェアを含む包括的な取り組みが必要であることを示唆している。以下の推奨事項は、栄養の改善、食糧安保、食料安全、生態系の健康、ならびに炭素排出量、海洋プラスチック、乱獲、公衆衛生上の脅威の削減にも貢献できるものである。以下の10の優先分野それぞれに示されているように、アニマルウェルフェアを考えることは、持続的な発展における多くの難題に対する横断的な解決策にもなる。これらの目標に到達する上で、今こそアニマルウェルフェアの果たす役割は非常に大きいことを認識する時である。アニマルウェルフェアと持続可能性推奨事項我々は、水生動物のアニマルウェルフェアが持続可能性の中心となる10の重要な分野を特定し、推奨するアクションとともに提案した。1. 水質 高い飼養密度と非効率な給餌から生じる質の低いアニマルウェルフェアは、養殖場における有毒な排水の原因となる。処置をせずにしておくことは、水から酸素を奪い、藻類ブルームやデッドゾーン、そして公衆衛生の問題を引き起こす。A. 種に適切な飼養密度と最適な給餌によって、有毒な排水を緩和することができる。B. 養殖の土地計画と場所の選定に関する詳細な評価も、養殖業の環境への負荷を防ぐことができる。2. バイオセキュリティー非在来種の魚が養殖地から逃げた場合、餌の争奪戦や在来魚との入れ替わりの原因となり、天然魚の数の減少をもたらし地域の環境を劣化させる。A. 生産者は養殖魚が逃げてしまわないよう、ネットを二重に張るなど不測の事態に備えた対策を行うこと。B. 各種に適した飼養密度を保ち、飼料の成分および環境のエンリッチメントを改善することで、ストレスと攻撃性を自然に減らす (特に、通常控えめな種は捕われの状況では攻撃的になりやすいため)。C. 海上養殖の課題 (水質汚染や魚の脱出など) の解決策として集約的陸上養殖システムに移行することには強く注意を喚起する。循環濾過養殖システムでは、システム上に大きな欠陥が生じると何百万もの魚を死滅させ得る。3. 病害防除病弱、低栄養、あるいは飼育状況に起因する免疫力低下が養魚場での病気発生の原因となる。免疫が低下すると病気発生の可能性が高まり、病原菌や寄生虫などが養殖場の外に広がりかねず、地魚に被害を与え、地域の生態系破壊につながる。A. 各種と成長段階に適切な飼養密度、給餌、環境面の改善により、魚類のストレスが軽減され感染症のリスクを下げることができ、病気の増加を防ぎ、他の魚への伝染病の危険性も減らすことができる。これらの予防策は常に、病気と寄生虫に対する防衛の第一歩となるべきである。B. 病原体と戦い個々の生命体の免疫システムを高める従来のワクチンのような医学的介入を用いること。これらの措置は、水中で魚を扱うことに慣れていて空気に触れさせる時間を極力短くできるなどのアニマルウェルフェアの実地を積んだ従業員によって行われなければならない。C. これらの措置において用いられるすべての動物への福祉に逆効果にならないような対応を取らなければならない。それ故、魚ジラミの処理のために掃除魚を使用はしないこと。D. 身体的かつ行動的福祉指標を監視および認識するためのトレーニングをスタッフに提供すること。4. 薬剤耐性 バクテリア感染を防ぐための処置として特に孵化場では抗菌剤が頻繁に用いられる。しかし基準を超えた使用は薬剤耐性への大きな懸念を引き起こしている。アニマルウェルフェアが貧弱な場合、ウイルス、寄生虫、病原体に対抗するための抗菌剤の必要性が増す。A. 群全体に広がる前に一部の孤立した症例の段階で発見し治療するように最大限の努力をすること。B. 抗生物質の日常的使用、あるいは予防的な使用は徐々に止めること。しかし、感染防御のために抗生物質の使用が絶対的に必要な時は許される。C. ワクチン投与が必要な場合は、魚の苦痛を最小限にするために、資格を有する獣医あるいは経験を積んだ動物衛生の専門家によって、麻酔を施して行う。5. 飼料成分養殖においての飼料は、野生魚への依存が減ってきたことから劇的に改良されてきたとはいえ、養殖は依然として在来の野生魚に頼る部分が大きい。飼料成分とその技術の大きな改良なくしては、漁業全体の未来は世界的な食料安全保障同様、危機に瀕してしまう。A. 野生魚の減少を緩和するために、研究と技術革新を通して飼料成分をより改良するような効果的な取り組みを促したい。B. 生産者は新たな試みとして可能な限り植物性飼料への移行が求められる。そして、植物性飼料が魚の健康にも生態系にもマイナスの影響を与えないとのエビデンスがある限りにおいて、飼料効率比を向上させる(例えば動物由来の飼料を減らす)ことへのシフトが求められる。C. 養殖する魚を肉食種から草食種、雑食種、抽出種に移行させ、動物とその飼料が同時に生産される体制を作り、より草食型の給餌に変えていくこと。6. 気候変動 養殖の飼料として求められる野生魚の総数削減は、気候変動に直接関係している。養殖魚の給餌のために魚を捕らえる方法の一つに底引き網があるが、これは炭素排出が非常に多い。その反面、養殖は気候変動にますます様々な形で影響を受けることになる。例を挙げると、そして海洋酸度、溶存酸素量、海水温度の上昇、そして激烈で予期できない異常気象の増加などがある。A. 混獲、ゴーストギア(投棄されて海に流出した漁網などの漁具)、魚の死亡率、海底生息地の破壊、及び炭素排出を減らすための底引き網漁の禁止。全面的な禁止が実現するまで、底引き網漁について、代替措置ならびに管理対策をいくつか提案する(詳細報告書の8ページ参照)。B. 海洋再生農業と海藻の養殖を推進する。両者は炭素隔離、海洋生態系の回復に役立ち、世界的なプラスチック汚染の危機を喚起することの一助にもなる。C. 信頼のおける持続可能な供給者から飼料を確保することが最優先事項である。なぜならばこれが、飼料用に捕獲され加工される動物たちに直接関係し、その過程は大量の温室効果ガスを排出するからである。7. 食料安全保障 水準の高い水生動物福祉は、より食料安全保障のある未来につながる。なぜなら、それは最良の科学技術を駆使してアニマルウェルフェアの高い環境を作り、究極的に動物の疾病率と死亡率を減少させるからである。A. 水揚げ地域で、たんぱく質や栄養素の直接の供給源として、マイワシやカタクチイワシのような低次栄養段階の種を利用すること。B. 魚が主な栄養源となっている地域のために、野生魚の数を減らさないように給餌転換比率の効率を高めていくこと。C. 魚の数を回復させ、たんぱく源として地域社会に供給できるようにするために、漁獲禁止海洋保護区を推進していくこと。8. 食の安全 動物福祉のいくつかの要素は、消費者にとっての魚製品の安全性と品質に影響を与える。生育期間中は、不適切な動物福祉が、バクテリア、ウイルス、生物毒ならびに寄生虫の増加を招き、これらに対して一般的に抗菌剤と化学薬剤が用いられる。屠殺の際に、微生物による水の汚染、手による扱いの増加、有害な気絶処理や屠殺方法により、屠殺後のバクテリアの増加が促進する可能性があり、食品の安全性をおびやかす。A. 養殖においては、ストレスと病気を最小限に抑えるために、水生動物の種と成長段階に適切なアニマルウェルフェアの高い環境を提供するあらゆる取り組みがなされるべきである。B. 捕獲漁業においては、水生動物のストレスと病気を最小限に抑えることを念頭に、アニマルウェルフェアに配慮した捕獲と取扱いがされるように、あらゆる努力が払われるべきである。9. 生態系の健全性 養殖も捕獲漁業もアニマルウェルフェアの配慮が欠如していると、生態系の健全性に悪影響を与えてしまう。養殖では、給餌における栄養過多あるいは不足は水質の悪化、汚染をもたらし、その水域で過剰となった飼料が滞留し野生魚や捕食魚を引きつけてしまう。捕獲漁業では、ゴーストギアと呼ばれる投棄された漁網や漁具が無差別に海洋生物を殺し続け、深刻なプラスチック汚染をもたらしている。A. 沖合での養殖においては、魚種に適したアニマルウェルフェア上の配慮をすることで、捕食魚や脱出魚を減らし、廃水流出の可能性を減少させる。B. 捕食行動が問題になり得る養殖システムにおいては、養殖魚にはもちろん、捕食魚および影響を受けるすべての魚種に対するアニマルウェルフェアの影響を考慮に入れた上で、捕食対策実施のリスク評価を行うべきである。C. 捕獲漁業では、アニマルウェルフェアと環境への影響に配慮して作られた漁具を用いることで水生動物(捕獲の対象であってもなくても)の不必要な死亡を減らし、海洋プラスチックの残骸を減少させることに役立つ。10. 生計 人々が漁業で生計を立てている地域は世界中に数多くあり、そこでは雇用、栄養豊富な食糧、人々の健康が漁業にゆだねられている。しかしながら、それらの地域はずさんな経営管理や持続可能でない漁法により脅威にさらされており、絶滅危惧種も含む捕獲対象外魚種の乱獲や過剰な混獲が起きている。こうした問題は将来の就業機会や家族経営事業を危機に追いやるだけでなく、食料安全保障と公衆衛生を悪化させてしまう。さらに、捕獲漁業においては、特に発展途上国からの出稼ぎ労働者たちに見られる人身売買や人権侵害のような問題が漁船で報告されており、それらに終止符を打たなければならない。同様に養殖の分野でも、労働者たちは数多くの職業上の潜在的危険にさらされている。A. 労働者の安全のために、すべての国は漁業者たちの労働に関する最小限の要件であるILO (国際労働機関) の条約 第188号を批准するべきである。また、最新技術を搭載したツールを導入して、労働者が船上でも常に自分たちの労働状況を報告できるようにすることが望ましい。B. キャッチ・シェア管理システムは、小規模漁業者の保護を保証するために、また、ほかの地域のニーズに対応するために、そして大手の水産会社との行き過ぎた経営統合や吸収合併から小規模漁業者を守るために、地域に根ざしたニーズと構想を基盤にすることが必須である。アニマルウェルフェアの介入もまた地域社会の文化的ニーズと構想に根ざしたものであること。C. 沿岸地域の生計を支えることができる最良の慣行と施策に沿うこと(詳細報告書の13ページ参照)。D. 乱獲、IUU(違法、無報告、無規制)漁業、底引き網漁のように生態系を大きく破壊する漁法を促進することになる有害な漁業補助金(例えば燃料補助、大規模産業漁業船団への財政支援など)は廃止。持続可能な漁業方法を支援する補助金は推進する(例として、閑散期における零細漁業者への加給金支給、持続可能な漁業経営プログラム、そして地域漁業の研究開発など)。結論今後、魚介類の消費拡大が予想されることに伴って、乱獲、気候変動、持続可能でない生産方法などの更なる難題が脆弱な生態系に降りかかり、魚介類に最も依存する人々や動物に害を与えることになる。これらの勧告は、水生動物が命を全うできるような有意義な福祉介入のための確固たる骨組みを提供し、また、地球規模での発展という観点から、養殖業や捕獲漁業が今後何十年にわたり持続可能で人道的な発展を保証するための適応処置を提供するものでもある。詳細情報と追加の勧告は報告書全文を参照のこと。我々は、水生動物へのアニマルウェルフェア方針が、今日直面している持続可能性における難題を解決するための重要な役割を果たし、持続可能性に関する施策にとって不可欠なものであることを明らかにできたならば幸いである。署名団体Aquatic Life Institute, Essere Animali, One Voice, Rev Institute, Anima International, Animales Libres de Tortura, Animal Friends Jogja, Catholic Concern for Animals, Humane Society International, Fish Welfare Initiative, Conservative Animal Welfare Foundation, Crustacean Compassion, CAAWO, Compassion in World Farming, Animal Rights Center Japan, Proteccion Animal Ecurador, Advocating Wild, Sinergia Animal, The Humane League, Voters for Animal Rights, Change for Animals Foundation, Voice for Animals, Sea Beyond Me, Ocean Conservation Namibia, Scorpion, Vegetarianos Hoy, arba, Sharklife, A Plastic Ocean Foundation, IALA, SPCA Montreal, NY4Whales, Equalia, Animals Aotearoa, animal, FREE, APON, Animal Advocacy Africa, Kafessiz Turkiye, GAWF, WTS, EAAW, UTUNZI, WACPAW, Humane Africa, SAFCEI, SAWC, TAWESO, DBV SPCA, Dharma Voices for Animals, GAWS, The Humane Global Network, Animal Empathy Philippines, Dyrenes Alliance日本語訳はボランティアの木村さんからご協力いただきました。クリックして Twitter で共有 (新しいウィンドウで開きます)Facebook で共有するにはクリックしてください (新しいウィンドウで開きます)クリックして X で共有 (新しいウィンドウで開きます)Share This Previous Article選挙が”動物”たちにとって大切である5つの理由 Next Article参議院選挙2022!畜産動物は守らられるか? 2022/06/27