コチラの記事で紹介したとおり、日本で一般的に行われている、生きたままで甲殻類を焼いたり、茹でたり、イセエビをいきなり頭と胴体部で真っ二つにする行為は、彼らに堪えがたい痛みと苦しみを与えている。この苦しみを終わらせるためには、彼らを食べないという簡単で誰でもできる選択があるが、甲殻類を食べるという風習はしばらく続くだろう。それをふまえ、どのようなやり方で彼らを殺すのがもっとも苦しまないやり方なのかを書こうと思う。なお、以前アニマルライツセンターは、ニューサウスウェールズ州のガイドライン「魚類や甲殻類の人道的な捕獲、さばき方」を翻訳したものを公開していたが、このガイドラインには魚類や甲殻類に強い苦痛をもたらす可能性がある記述、不備があると思われる点がいくつかあったため、注釈を入れてコチラに公開した。甲殻類(ロブスター・イセエビ・カニなど)をできるだけ苦しませずに殺す方法脊椎動物とは異なり、甲殻類は単一の複雑な脳構造を持っていません。ただし、侵害受容器(痛みの受容体)と中枢神経系はあります。 中枢神経系は、腹側にあり、一連の神経節をつなぐ二重の神経索で構成されており、最大の神経節が頭にあり、脳として機能しています。侵害受容器は、感覚器と呼ばれる殻のクチクラの延長部にあり、これらは中枢神経系への有害な刺激に関する情報を中継します。甲殻類の脳と中枢神経系は脊椎動物ほど複雑ではありません。しかし、甲殻類の脳と中枢神経系は痛みの知覚に必要なすべての要素を備えています。研究によると、甲殻類の解剖学的構造は、脊椎動物の異なる構造ではあるけれど、同じ機能を果たします。たとえば、甲殻類は完全に異なる目の構造を持っているにもかかわらず、視覚能力は十分に発達しています。甲殻類の中枢神経系が脊椎動物ほど複雑ではないため、恐怖や痛みを感じる能力が妨げられているということを示すものはありません。カニ、ロブスター、エビの痛みの知覚には生理学的な証拠があります。これらの甲殻類は、痛みを伴うストレスの多い刺激に反応して、脊椎動物のコルチゾールと同様に機能するストレスホルモンである甲殻類高血糖ホルモン(CHH)を産生します。また、鎮痛剤やオピオイドで治療すると、有害な刺激に対する反応が低下することも示されています。Crustacean Welfare Managing Welfare During Handling and Slaughter甲殻類の中枢神経系の場所カニの中枢神経系(赤い部分) http://reefkeeping.com/issues/2003-12/rs/index.phpエビの中枢神経系(下部の薄いピンク色の部分) https://aquariumbreeder.com/dwarf-shrimp-internal-anatomy/1.殺す前に、できるだけ苦しませずに気絶(無意識に)させる2.気絶後、できるだけ苦しませずに確実に殺す。そのあとで茹でる、焼く、解体するなどを行う。1.殺す前にできるだけ苦しませずに気絶(無意識に)させる方法瞬時に気絶(無意識に)させる可能性の高い方法はCrustastunのみ。ただし、Crustastunも小さい甲殻類には使用できない。方法対象種効果*懸念電気式(Crustastun)甲殻類(サイズによる)0.5秒で気絶し、5-10秒で死に至らしめることが可能であるCrustastunという専用の機器を使う必要がある。製造元の説明書に従って適切に行わなければ、自切などの深刻な福祉の問題を引き起こす。小さい甲殻類には使用できない。アカザエビ(20㎝)くらいの大きさまで。麻酔(AQUI-S)魚、甲殻類麻酔をかけることも、殺すこともできる。鎮痛(痛みを軽減する)作用があり、活動と生理的ストレス反応を軽減させる。麻酔の有効性のさらなる検証が必要。麻酔薬の濃度、曝露時間、水温、魚のサイズと体重を慎重に検討する必要がある。日本では認可されていない。麻酔(クローブオイル)魚、甲殻類殺すのに25分以上かかるが、その間、カニは嫌悪行動を示さず、自切は起こらなかった動物に影響を与える可能性のある有害で強い臭気がある。麻酔の有効性のさらなる検証が必要。国内で食用としての使用が可能か確認中氷スラリー*につける(推奨できない方法)甲殻類(低温に弱い熱帯種と温帯種)20分程度つけることで、動きが見られなくなるが、種により異なる。海洋種には、塩水の氷スラリーを使用する必要がある。淡水カニの場合は塩水を含めてはならない。麻酔効果の有効性のさらなる検証が必要。低温に適応する温帯種には推奨できない。*効果は「一般的な効果」。同じ気絶方法を用いても、種や個体差により効果がことなる。*氷スラリー 細かく砕いた氷と水の均一な混合物。一般家庭で使用できる。商業ベースでは作成過程が複雑になる。A review of the use of ice slurry and refrigerated seawater for the killing and holding of finfish無意識の兆候(種による差があるが、一般的に)腹部や尾をこちらが持って動かしても抵抗がなく、簡単に伸ばしたりできる殻を軽く叩いても目の反応(動き)がない。口の部分に触れても反応がない。ストレスを味わっている兆候尾をむち打つ自切(手足などの体の部分の切断)CrustastunCrustastunは家庭や店舗で使用される小型のもの。気絶だけでなく死に至らしめることも可能。(Crustastun以外の商業ベースで大規模に行う場合の電気式機器は気絶処理のみ、自切が発生する)Crustastunによる電気スタンニング法は、動物へのストレスは最小限であるため、ストレスホルモンは貝の体内に放出されない。そのため肉の味と食感を改善する。バクテリアを殺すため、食の安全の観点からも有効だという。イギリスの主要なスーパーやレストランで使用されている。定価で約47万円。詳細は販売会社サイトMitchell & Cooper https://www.mitchellcooper.co.uk/appliances/crustastun-12749麻酔(AQUI-S)死に至るまで、嫌悪行動を示さず、自切は起こらない。食用魚に使用できる。肉質が改善する。コストが安い。日本では現時点で(2021年2月16日)認可されていません。参照取扱会社サイト AQUI-S Aquatic Anaesthetic Crustacean Welfare Managing Welfare During Handling and Slaughter氷スラリー(魚は容認できない。事前に脳の破壊を行わずに氷水につけると、魚は9分にわたり意識を保つと言われており、非人道的な方法である。)以下に、Crustastunが使用できない場合を考え、氷スラリーの手順を示すが、これを推奨するものではない。氷スラリーに浸けられたカニ。すぐに動かなくなるがそれは意識がないことを意味していない。それはこの動画を見ればわかる。氷水に入れてすぐ、このカニはストレスの証拠である自切を起こしている。氷スラリーは商業ベースで広く使われており、また動物福祉の面から氷スラリーを推奨するガイドもあるが、現在のところ氷スラリーで甲殻類が無意識であることは証明されていない。氷スラリーにつけた場合の種ごとに実証は行われておらず、冷却が嫌悪をもたらさない証拠はない。氷スラリーに入れて動かなくなったとしても麻痺しているだけで意識がある可能性があり、行動指標だけで意識の有無を判断することはできない。研究では、オオガニを氷スラリーで -1.5°C、2時間冷やすと、動物は触角と手足の動きを維持したままで、手足の一部は凍結した。イタリアでは氷の上でロブスターを保管することを違法とする最高裁判所の裁決も出ている。手順断熱容器に砕いた氷と水を入れる。海洋種の場合は、海水の塩分濃度に合わせて塩水を追加する。氷と水(海洋種は塩水)の比率は3:1。水温をマイナス1度以下に維持する。正しい温度を維持するのに十分な氷が必要。甲殻類を氷のスラリーに入れる。海洋の甲殻類は、深刻な浸透圧ショックで、死亡してしまうため、真水の氷スラリーにつけてはならない。また海洋の甲殻類は氷が解けるにつれて塩分濃度が低下し、浸透圧ショックを引き起こす可能性もある(海洋の甲殻類が真水につけられて死ぬまでにかかる時間は長く、カニを殺すのに10°Cで3〜5時間と言われる)。 逆に淡水の甲殻類は塩水の氷スラリーにつけてはならない。定期的に無感覚の兆候がないか確認する(「無意識の兆候」と「ストレスを味わっている兆候」を参照)。無意識を誘発するのに必要な時間は、種、動物の大きさ、および個々の代謝状態によって異なる。多くの種では、少なくとも20分が必要だと言われている。しかし、バナメイエビとアメリカザリガニが数秒で鎮静したという研究*もある。この研究では氷スラリーに浸けた時、カニ(ブルークラブ)の心拍数低下には5分、アメリカザリガニは2分、バナメイエビは30秒かかった。甲殻類が無意識の兆候を示したら、回復しないうちに迅速に殺す。研究*では、すべてのバナメイエビ、アメリカザリガニ、ブルークラブいずれの心拍数も、元の水に戻すとすぐに跳ね返り、2〜5分後、すべての種が感覚刺激に対して反応を示したので早急に殺すことが必要。2018 Sep 18. Physiological Changes as a Measure of Crustacean Welfare under Different Standardized Stunning Techniques: Cooling and Electroshockやってはならない気絶方法打撃 牛や豚や鶏では、殺す前に頭にボルトガンのようなもので強い衝撃を与えて気絶させる方法があるが、甲殻類は牛や豚や鶏ほど神経系が集中していないため、打撃は認められない。空気中で冷却する(冷凍庫など)これを推奨するガイドもあるが、上述した氷スラリ―同様、空気中の冷却で甲殻類が無意識であることは証明されていない。それに加えて熱伝達速度が水よりも遅いため、空気中での冷却は氷スラリーよりも時間がかかる。また、空気への暴露がストレスを引き起こすことが、生きた甲殻類の輸送における生理学的および免疫反応の多くの調査でわかっている。また研究は、-37°Cの冷凍庫に入れられた食用カニが意識の行動的兆候を失うのに30〜40分かかることを示した。冷凍庫に60分入れた後、すべてのカニは自切によって2本以上の足を失っていた。二酸化炭素研究では、カニは嫌悪行動を示し、12分後にまだ意識のある兆候を示していたカニもいた。 オオガニは、自分の手足を打ち砕き、自切も行った。2.気絶処理後、茹でたり、焼いたり、解体したりする前に、できるだけ苦しませずに殺す方法対象種効果懸念縦に分割(頭部と尾部を分割するのではない)ロブスターやイセエビなどの十脚目(エビ目)中枢神経系の破壊(13カ所の神経節の破壊)10秒以内に行うエビ目はスパイク(刺す)を使用してはならない分割で13カ所を破壊することは困難二か所をスパイク(刺す)カニ中枢神経系の破壊(2カ所の神経節の破壊)10秒以内に行う知識と正確さが必要気絶処理を行わずに、中枢神経系の破壊を行ってはならない。破壊作業に10秒ほど時間を要するため、意識のあるままでこれを行うことは容認されない。甲殻類には複数の中枢神経がある。脊椎動物と異なり一か所を破壊すればよいというものではない。気絶後、茹でたり焼いたり解体したりする前に、これら複数の中枢神経系の迅速な破壊が必要。確実に中枢神経系の破壊が達成できるかどうかは疑問が残る。手順を読んでもらえば分かるように、カニのスパイクは知識と正確さが必要だ。エビ目の場合は、中枢神経系が13の神経節で構成されており、縦に分割することでそれらすべての破壊を達成できるのか疑問視する声*もある。しかし電気式Crustastunが使用できない場合は、氷スラリー後の分割あるいはスパイクという殺し方しかない。電気式Crustastunは気絶だけでなく殺すことも可能と言われているが、種差、個体差があること、確実に死んでいるかどうかをキッチンで確認することは不可能であることから、事前にCrustastunを使用した場合も、必ず茹でたり、焼いたり、解体したりする前に殺す作業をおこなうこと。*WHY CREATE THE WORLDS FIRST HUMANE CRUSTACEAN STUNNER?エビ目体の腹側から頭に縦の線に走る中枢神経系(Ganglia)がある。頭の一番端にあり、眼のすぐそばにある神経節が脳にあたる。縦方向に鋭いナイフで切断することにより脳を含めた連なる13の神経節を破壊するために、縦半分に分割しなければならない。手順エビ目が無感覚になったら、平らで滑りにくい場所に仰向けにおき、腹部をはっきりと露出させる(エビ目のハサミが邪魔になる場合は無感覚になったあとで足を結ぶ)頭の一番端にあり、眼のすぐそばにある神経節(脳)を腹側からナイフで刺して破壊する。ナイフの向きはエビ目の中心線に沿わせ、口の部分から頭にむけて刺す。口から眼の間に向けて切断するつもりで行う。尾と頭の接合部分近くからナイフを入れ、頭に向かって中心線をまっすぐに切断する。尾と頭の接合部近くからナイフを入れ、尾に向かって中心線をまっすぐに切断する。縦方向に分割した後、胸と頭にある中枢神経系をすばやく取り除く。中枢神経系がどのように見えるかはこちらの48-50ページ「ventral nerve cord」と「Brain(中枢神経系の一つ)」ページを参照ナイフでの切断には、強い力を加えられるよう、木づちを使う。大きくて鋭く、殺すエビ目と同じくらい長くて深いナイフを使用すること。切れ目を入れるのではなく、分割すること。すべての手順を10秒以内に終わらせること。切断の場所(緑色の線)ナイフの入れ方カニカニには前と後ろの二か所に主要な神経節があるので、その二か所にナイフを刺す。カニの中枢神経系(Ganglia)はじめに刺す神経節は、下のふんどしと呼ばれる部分(Tail flip)付近にある。ふんどしの大きさはオスメスまたは種によって異なるため図の大きさは参考までに。ふんどしをめくったあたりに、穴が開いていることがあるがその穴は中枢神経の上にあたるので穴から刃物を入れる。上部に二番目に刺す中枢神経がある。横から見た図。初めに刺すのが右側の神経節。次に刺すのが左側の神経節。点線はナイフをいれる入れる角度を示す。手順カニが無感覚になったら、平らで滑りにくい場所に仰向けにしておく。一度目に刺す場所は、上図の右側。Tail flap(腹節:ふんどしと呼ばれる部分)を少しめくり、上図の点線のとおりの角度で刺す。フンドシをめくったあたりに、穴が開いていることがあるがその穴が中枢神経の上にあたるので、穴がある場合は、その上から刃物を入れる。二度目に刺す場所は、上図の左側。一度目と同じように点線のとおりの角度で刺す。刺す場所についてはこちらの写真も参照使う刃物は、千枚通しや先の尖ったナイフを使用すること。すべての手順を10秒以内に終わらせること。一度目に刺す場所やってはならない方法中枢神経系の破壊前に、茹でる(沸騰した湯に入れるもしくは、水から入れて沸騰させる)、焼く(茹でる、焼く、いずれも、気絶処理後であってもやってはならない)。冷却後、意識が戻るため、これらの方法は苦しみを長引かせる可能性がある。研究では、事前に氷スラリーに入れたカニを沸騰した湯に入れた場合、沸騰した湯に生きたカニを入れるよりも、死ぬまでに時間がかかるという。また、生きたまま茹でられた甲殻類は、ストレスホルモンを出し、肉の風味と食感に悪影響を及ぼす*。水から入れて沸騰させれば痛みを伴わないという主張が一部であるが、水から入れて沸騰させられたロブスターはひっくり返り、揺れ、震え、身もだえ、けいれんなどが観察されている。*https://www.mitchellcooper.co.uk/why-crustastun中枢神経系の破壊前に、エビ目の腹部と胸部を分割する(気絶処理後でもやってはならない)。中枢神経系の破壊前に、電子レンジで加熱する(気絶処理後でもやってはならない)。水から出す(鰓組織が乾燥することで酸素不足で死ぬ)。十分な通気なしに水の容器に入れる(酸素不足で死ぬ)。生きている甲殻類を料理として提供するできるだけ苦しめないだけであって、どのような殺し方でも苦しむことを忘れてはならない以上ができるだけ苦しめない甲殻類の殺し方だ。電気式のCrustastunが使えれば苦しみは大きく減らせるだろうが、Crustastunでも個体や種の別なく確実に苦しめずに殺せるかと言えばその保証はない。Crustastunは一定の大きさのある甲殻類にしか使用できないという欠点もある。Crustastunが使用できない場合は、別の手順になるが、この手順を正確に行ったとしても、苦しみを減らせているという証拠はない。甲殻類には多くの種がある。それぞれの甲殻類に応じた「人道的な」甲殻類の殺し方は明らかになっていない。明らかになったとしてその人道的な殺し方が甲殻類を殺すすべての場所に導入されるのはいつになるのだろうか。殺す以前に、捕獲から輸送に至るまでのすべての過程が甲殻類にとって苦しみとなっていることも忘れてはならない。単純な話だが甲殻類を食べるという考えを捨てれば、今私たちが甲殻類に対して行っている非人道的な行為を放棄することができる。甲殻類の苦しみに気が付き、彼らを食べるという習慣から遠ざかる人が増えることが願われてならない。参照サイトHARVESTING OF FISH July 2014_HARVESTING OF FISHThe Welfare of Crustaceans at Slaughter Stephanie Yue, Ph.D.Humane dungeness crab killCRABS, LOBSTERS AND UK ANIMAL WELFARE LAWWelfare during killing of crabs, lobsters and crayfishElectrical stunning of crustaceansWhat is the most humane way to kill crustaceans for human consumption? (写真はすべてこのRSPCAのサイトから引用)クリックして Twitter で共有 (新しいウィンドウで開きます)Facebook で共有するにはクリックしてください (新しいウィンドウで開きます)クリックして X で共有 (新しいウィンドウで開きます)Share This Previous Article生きたまま焼かれ、沸騰した湯に投げ込まれ、半分にされて皿に盛られるエビやカニ。甲殻類の苦しみ。 Next ArticleOIE陸生動物衛生規約 第7.6章 疾病管理を目的とする動物の殺処分(日本語訳) 2021/02/03