卵の価格に現れる「企業から未来へのメッセージ」

安い卵がもたらす未来とは? 最近、「朝食指数(Breakfast Index)」という言葉が注目されています。これは、卵、パン、牛乳、バター、コーヒーなどの朝食の定番食品の価格変動を示す指標で、2022年以降急上昇しています。 しかし、卵の価格について本当に考えるべきことは、「高くなった」のではなく、これまでが「不当に安すぎた」という視点です。 卵の安さは、養鶏業者の負担、企業の価格競争、さらには鶏に無駄な苦しみを与える生産調整によって成り立っていました。それでも消費者が「安い卵」を求め続ければ、私たちの食の未来、環境、動物福祉に悪影響を与えるのです。 安すぎる卵の裏側:本当のコストとは 卵が異常に安く販売されることで、負担を強いられているのは、生産者、環境、動物たち、そして持続可能な社会そのものです。 ① 養鶏業の衰退と生産者の負担 利益の出ない価格競争の中で、卵1個の生産コストが25円以上かかるにもかかわらず、市場では20円以下で販売されていた時期もあります。価格競争が続けば、低価格を維持できない小規模生産者は廃業に追い込まれ、大規模業者に市場が集中していきます。政府は「成鶏更新空舎延長事業」を通じて卵の供給量を調整し、価格の急落を防いでいますが、これ自体が健全な市場形成を阻害しています。その結果、価格変動に耐えにくいサプライチェーン構造を作り、業者が1円でも安い卵を求める元凶となっています。そもそも市場の体力が弱まり、生産者が経営できなくなれば、卵の安定供給は不可能になるのだから、この事業は生産者を守るといいつつ、本末転倒なのです。 ② 動物福祉を無視した生産体制 日本の養鶏場の90%以上がいまだ「バタリーケージ飼育」です。この残酷な飼育設備で鶏は、A5用紙ほどのスペースに閉じ込められ、身動きすらできない環境で一生を過ごします。 さらに「安さ」を維持するためには、過密飼育が必要になります。限られたスペースでより多くの卵を生産するため、鶏の自由な行動は極端に制限され続けています。しかし、適正な価格で販売されれば、生産者はよりアニマルウェルフェアに配慮した飼育方法にコストをかける余裕ができます。 ③ 企業のビジネス戦略が消費者の選択を決める 私たちは、買い物をするときに「自分の意思で選んでいる」と思いがちですが、じつはその選択肢は企業のビジネス戦略によって決められています。 スーパーに並ぶ卵のほとんどがバタリーケージ卵であれば、消費者はそれを買うしかありません。逆に、平飼いやケージフリー卵が当たり前に売られていれば、それが「標準」となり、消費者は自然とそれを選ぶようになります。 価格のつけ方が価値観をつくる:企業のメッセージが消費者の意識を変える ビジネスの世界では、「価格戦略」が消費者の意識に大きく影響を与えます。 250円の卵と400円の卵が並んでいるとき、250円の卵が「お買い得!」と強調されれば、多くの人がそちらを選びます。しかし、「この400円の卵は平飼いで、鶏の健康と自然な環境を守っています」と伝えれば、消費者の目線は変わります。 どんな価格で売るかは、企業のメッセージです。価格は単なる数字ではなく、企業が何を大切にしているか、どんな価値を消費者に届けようとしているかを表しています。 企業が「最安値」を強調すれば、「卵は安いもの」という価値観が定着します。しかし、「アニマルウェルフェアの卵が標準」とすれば、消費者はその価値を受け入れるようになります。企業が「安さ」ではなく「価値」を前面に打ち出すことで、消費者はより良い選択をしやすくなり、市場全体も変わっていきます。それが食の持続性につながるのです。つまり、企業がどんな価格を設定するか、どんなメッセージを発信するかによって、消費者の価値観は変動するのです。 ④ だからアニマルライツセンターは企業と交渉している 市場の流れを変えるために、アニマルライツセンターは企業と交渉を続けています。 飲食チェーンや食品メーカーには、「バタリーケージ卵ではなく、ケージフリー卵を使ってほしい」と働きかけ、スーパーやコンビニには「アニマルウェルフェアな卵の販売を拡大してほしい」と要請しています。また、企業が畜産物の持続可能な調達基準を採用するよう提案しています。企業の仕入れ基準が変われば、それが市場の「普通」となり、消費者の選択肢も変わっていくからです。 未来のために、「安さ」ではなく「価値」で選ぼう 企業のビジネス戦略が変われば、消費者の意識も変わります。 消費者が「安い卵」を選ばなくても、企業が安い卵を仕入れ続ければ、問題は解決しません。企業が購買の基準を変え、持続可能な選択をすることが、社会全体の変革の鍵となります。だからこそアニマルライツセンターは、企業が変わることこそが持続可能な社会への第一歩と考え、交渉を続けています。…

エシカル通信簿 今年度はトイレタリー企業:発表会参加募集

アニマルライツセンターも参加している消費から持続可能な社会をつくる市民ネットワーク(SSRC)」では、それぞれの専門家英知を集結させ、消費者がサステナブル・エシカルな視点で行動できるように、『企業のエシカル通信簿』などのプロジェクトを行っています。アニマルライツセンターは動物の分野の設問作成や採点を担当しています。 『企業のエシカル通信簿』は、企業が動物や環境・人権などに配慮した持続可能な事業活動を行っているか、そして市民向けの情報開示がなされているかどうかを7分野に分けて調査し、その結果を評価・公表するものです。今年度の調査対象企業は、石鹸やシャンプーなどのトイレタリー業界大手9社。評価の結果をまとめ、2025年3月13日(木)に、2024年度の『企業のエシカル通信簿』の結果発表会を東京都内会場にて開催いたします。 ■『企業のエシカル通信簿』結果発表会詳細 日時:2025年3月13日(木) 13:00~15:30 会場:聖心女子大学4号館・聖心グローバルプラザ3階「ブリット記念ホール」 東京都渋谷区広尾4-2-24(東京メトロ日比谷線「広尾」駅4番出口徒歩1分) (当日、会場からのオンライン配信も予定しています) 対象者:トイレタリー・日用品企業および関連企業、専門家、メディア、一般生活者、学生、その他サステナブルやエシカル生産に関心の高い企業やその関係者の方など 参加費:無料 参加申し込み締め切り:2025年3月11日23:59 Peatixからお申し込み *締め切り以降の応募については、対応できかねる場合がありますので、お早めにお申し込みをお願いいたします。 主催:消費から持続可能な社会をつくる市民ネット―ワーク(SSRC) 協力:聖心女子大学グローバル共生研究所 後援:大阪大学ソリューションイニシアティブ(SSI) 石鹸やシャンプーなど日常的に使用する製品の環境・社会問題にも身近になっていただき、企業やブランドのどこを見ればよいかなど、生活者すべての方々が実績できるようなお手伝いができればと思っております。 全ての方が参加できますので、是非お誘いあわせの上、お申し込みください。 ◎ご注意とお願い◎ ・当団体は皆様からのご寄付で運営しております。今後のより良い運営のために、是非この機会に寄付つき参加をご検討ください。 ・会場参加からのオンラインへのご変更、またはオンラインから会場参加へのご変更につきまして、特にご連絡をいただく必要はございません。ご都合に合わせてご参加ください。 ・オンラインの参加URLは、開催日前日までにお送りいたします。 ・オンライン参加をいただいた方は、イベント後に配信されるアンケートに是非ご協力ください。次回開催の参考にさせていただきます。…

韓国の「動物福祉卵」の現状

アニマルライツセンター・アドバイザー 細川幸一(日本女子大学名誉教授) 2月下旬に韓国第二の都市釜山に行きましたので、市内の卵売り場をみてきました。 韓国の動物福祉卵には下記のマークがパッケージにあります。 動物福祉(ANIMAL WELFARE) 農林水産部 韓国では、アニマルウェルフェアの観点から以下の4つのランクに分けられています。 1:放し飼い 2:舎内で自由に飼育 3:改良されたケージ飼い 4:通常のケージ飼い パッケージの表示例 写真では見にくいですが、右下、HACCPマークの左に1から4番の説明表があり、その下にこの卵は2番であることが書かれています。 卵の殻には印字があります。下記の写真では「0203 PRC262」と読めます。最初の4桁は産卵日2月3日を示しています。そのあとは生産者固有番号で、最後の数字がこの区分にあたります。 この卵は2番の動物福祉卵です。 卵の印字例 卵の動物福祉レベルの内容(https://lazytrees.com/346/より) まず見たのは、韓国内に数多くあるスーパーHomeplusの卵売り場。約20種類の卵が置かれていましたが、「動物福祉卵」はその3割ほどでした。 この店で確認できた「動物福祉卵」はすべて2番「舎内で自由に飼育」でした。価格は15個(780グラム)で9490ウオン、940円ほどでしたので一個あたり60円ほどでした。何ら表示のない普通の卵は30個で7990ウオン、790円ほどで売られており、一個あたり27円ほどになります。パッケージされた個数が違うので単純比較はできませんが、およそ2倍の価格ということでしょうか。 スーパーHomeplus Homeplusの卵売り場 老舗デパートである「新世界」のフードマーケットの中の卵売り場にも行ってみました。 オーガニックを売り物にしている高級店でした。20種類ほどの卵がありましたが、ほとんどが「動物福祉卵」で、目にしたのは1番と2番でしたが1番が多くある印象でした。1番で10個入り(350グラム)が12800ウオン、約1280円でしたので、一個128円と高額でした。2番で15個(780グラム)9000ウオン、約900円のものもあり、こちらは一個60円となります。 老舗デパート新世界のフードマーケット 新世界フードマーケットの卵売り場 なお、「動物福祉卵」ではない卵は殻の印字は4番ですが、私が見た限りではパッケージにはその旨の表示はないようでした。法律上の義務付けは殻の印字だけなのかもしれません。 コンビニで燻製卵を買いました。2個で3000ウオン、約300円なので一個150円となりますが、パッケージには何も表示がなく、卵の殻の番号は4番でした。また何も表示のない卵の場合もありました。加工された卵の場合は表示義務はないのかもしれません。またレストランでの卵料理については何も表示がないのが普通のようです。また機会があれば調べてみたいと思います。 釜山在住の知人に聞いてみました。「動物福祉卵」は最近スーパーなどでもよく見られるようになっており、個人的な感覚では、30~40パーセントはあるのではないかということでした。価格については、1.5~2倍位だろうとのことでした。私が実際に見た感覚と同じです。…

アニマルライツチャンネルvol61[宗教は動物を利するのか、害するのか]

61回目のアニマルライツチャンネル、前回のラストに細川名誉教授が投げかけた仏教で動物どう扱われているのかという問いから、今回のテーマは宗教に。 ヒンズー教は牛を食べない、イスラム教は豚を食べないなどは常識的に誰もが知っています。そこで、アニマルライツチャンネルはより深く掘り下げるために、宗教が動物をどう扱ってきたのか、どう苦しめてきたのか、どう社会の成熟に役立ち動物への配慮を高めてきたのかを取り上げたいと思います。 仏教の中の動物は、僧侶でもある堀越啓仁氏に解説をいただきます。 また、その他の宗教と動物の関係についての概略と、どんな悪さをしてきたのか、逆に良い影響をどう与えてきたのかを取り上げます。 https://www.youtube.com/live/dm1sK1xfiak こちらのYoutubeのリンクから御覧ください。 日時: 2025年2月13日(木曜日) 20時30分〜22時過ぎ プログラム: [宗教は動物を利するのか、害するのか] アニマルライツニュース サンクチュアリ報告 おすすめ本…

アニマルウェルフェアの付加価値5,735億円 日本総研の試算

日本総合研究所は2025年2月20日、「社会課題に配慮した食」の市場規模を試算した調査結果を発表しました。日本の食料自給率向上、食品ロスの削減、環境への配慮、労働・人権への配慮・アニマルウェルフェアに対する意識を調査しており、残念ながら認知度はアニマルウェルフェアについてはやはり低く、39.8%にとどまっています。この結果は私達が行う認知調査とも重なります。他の課題は80%程度の認知度があることを考えると、より一層の啓発活動が必要であるということでしょう。 さて、重要なのはここから。 社会課題に取り組む価値を聞いており、初めて知った人も含め、83.6%の人が取り組む価値があるとしてます。その理由として45.4%の人が「動物を守りたいから」としています。嬉しくて泣けてきます。 他の課題より少し低い数値にはなりますが、それでも食品や外食を選ぶときの選択として考慮するべきという人も8割を超えています。また、配慮されていない場合に「選びたくない」というとても重要な気持ちも、他の課題と同等の45.1%の人が選びたくないと答えています。 食品企業にとって重要なのは、価格が上がったとしても選んでくれるか、というところですが、これについても、65.1%の人が価格の上昇を許容すると回答しており、3.5%の人は倍になってもいいと答えています。正直に言えば、鶏肉などは外国産を選べばより安くアニマルウェルフェアが一定程度担保できるものですが、卵などは価格上昇は必須であり、企業の取組みを後押ししてくれるかもしれません。 “社会課題に配慮した食”の付加価値総額を試算しており、これによるとアニマルウェルフェアは付加価値が5735億円と試算されてます。他の課題をあわせ重複を考慮すると1兆円規模だとのことです。 アニマルウェルフェアへの対応 日本の食料自給率向上 食品ロスの削減 環境への配慮 労働・人権への 配慮 5,735億円 8,287億円 4,539億円 6,551億円 6,225億円 調査では、食に対する態度や属性なども詳しく掲載しています。よくよく読んでいると、企業がこれまでアニマルウェルフェア商品のターゲット層として捉えていた高級なものを購入する人たち、ゆとりのある人たちというセグメントはもちろん手堅いものの層が薄く、より広い層に広げても良いことが見えてきます。 とくに食品企業のみなさまには、詳細のドキュメントを確認し、事業に活かしていただけることを期待したいと思います。…

精進もせず中身も精進でない精進料理

アニマルライツセンター・アドバイザー 細川幸一 ヴィーガン食は、日本では伝統的な料理として精進料理が知られています。仏教の戒に基づき殺生や煩悩への刺激を避けることを主眼として調理された料理です。台湾では日本より一般的で「素食」(スーシー)と言われ、レストランや屋台でもこの文字をよく見かけます。 使用が禁止されている食材が大きく分けて2つあり、1つは肉・魚・卵等の動物性の食材で、もう1つはあまり知られてはいませんが、煩悩を刺激するとされる「五葷」(ごくん)と呼ばれるニラ・ニンニク・ネギ等のネギ属などに分類される野菜です。 精進料理は、僧侶には必須の食事であり、食事もまた修行のひとつとして作法とともに重要視されています。一般人の間でも、冠婚葬祭やお盆等において、一般家庭や料理屋でも作られるようになったとされますが、料理屋の精進料理は、仏教の食事に関する概念とは対照的にもてなしを目的として調製された美食として動物性の食材が使われているものも多くあるようです。 私自身の経験ですが、数年前に母が亡くなったときに葬儀社と告別式の後の食事内容を検討した際に、魚や肉を使う料理のメニューばかりが提示されたので、精進料理はないのですかと聞いたら、これが精進料理ですと言われたことがあります。精進料理の本当の意味を葬儀社は理解していないのです。 「精進落とし」という言葉もあります。葬儀や火葬の後におこなわれる会食のことをこのように言う場合があります。しかし、かつては仏教の考えに基づき、故人が亡くなってから四十九日法要を迎えるまでは、肉や魚などを使用しない精進料理を食べていました。その後、忌明けを迎えた際に普通の食事へ戻すことを「精進落とし」と呼んでいたのです。 本来の精進料理を食する慣習がある地域などもあると思いますが、私の経験では精進する期間もなく、食材も精進でない「精進料理」を食べていることになります。 この写真は、島根県安来の清水寺境内にある旅館松琴館の本物の精進料理。右上の料理は鰻もどき。夕食時に筆者撮影。…

日本の食鳥処理場は鶏を3度殺す

鳥処理場の約9割の食鳥処理場が、意識を失わせる行程を省いて意識あるまま首(頸動脈)を切るという残酷な屠殺方法を継続している。この雑なやり方は失敗率が高く首を切るのに失敗して次の行程である熱湯処理に意識あるまま進み全身やけどで殺しその死体は廃棄するということが起きている。 だが、残酷さはこれだけにとどまらない。 食鳥処理場の中には、”アフタースタナー”をやっているというところがある。このアフタースタナーとは一体なんなのか? 人間都合の”アフター”スタナー 本来スタニング(気絶処理)は、首を切るといういわゆる屠殺の行程の”事前”に行う。つまり”プレスタナー”をすることが世界の常識であり、そうでなくてはならない。だが、一部の食鳥処理場は”プレ”ではなく”アフター”だというのだ。つまり首を切ったあとに電気ショックを与えているということだ。しかも体が硬直する程度の定電圧であり、ほぼ意識が残っていると考えられる。 この方法を初めて聞いた人は必ず「なんぜ事前にちゃんとやらないの?!」と驚く。 理由は残酷で単純だ。このアフタースタナーを採用するということは、動物への配慮の思考がゼロであるということなのだ。ただ首切ったら暴れて羽が折れて商品価値が下がってしまうから電気で体を硬直させよう と考えただけなのだ。動物の苦しみについては思考の端っこにも登場しない。 たくさんの問題点がある。 意識を失わせているわけではない アフタースタナーは体の硬直が目的であるため、意識喪失が必須要件ではないし意識を喪失しているかどうかの確認も行われたことはないだろう。そのような研究も皆無だ。 唯一発見できたアフタースタナーについての研究は福島県食肉衛生検査所の長谷川氏による論文のみだったが、電流の大きさにより動きの制御が違うということがデータから読み取れるものの意識のあるなしは研究に含まれていない。 この論文ではアフタースタナーの電圧は20~25Vである。これは明らかに低電圧であり、意識はほぼ失っていないだろう。とくに脳を狙っての感電でもないため、体は硬直してもほぼ意識を保っていると思われる。 30V以下では、軽度の筋肉収縮や不快感は生じる可能性があるものの、意識が保持される可能性が高い。30〜70Vでは、部分的に意識が失われる可能性があり、痛覚は依然として残る場合があるのだ。 たとえ運良く意識を失ったとしても意識を途中で取り戻す可能性も高い。 つまり、動物にはデメリットこそあれ、何のメリットもない。 残酷な感電 そもそも専用の機器でもないのだ。アフタースタナーを長谷川氏は「右頚動脈を切開放血後,直ちにシャツクル器から脚部をとおり頭部が接着するよう調整した金属板に25Vの電圧で20秒間通電し移動する処理」と説明している。手動でやっているケースも有るように聞くが、例えばこの長谷川氏が説明する方法である場合、首からの出血が始まったときに体全体が金属板に触れて25V 近い電圧が流れるようである。首も痛ければ体全体にも感電の痛みを与えることになる。 世界が昔からやっている電気水槽による気絶処理であれば、先に頭部に電圧を流されて気絶する。 比較すると、①逆さ吊りの苦しみを感じる時間の長さが長い ②極限の痛みを与えられる回数が2倍 ③気絶できていない可能性が高く失血中体は動かないのに苦痛を感じ続けるという非常に苦しい状況 が発生するということである。 国際基準WOHA(世界動物保健機関)の基準に違反 第7.5.2条 動物の移動及び取り扱いのbには以下のように規定されており、動物を動けなくすることを目的とする電流の使用を禁じている。注釈として「(と殺の時のスタニングを除く)」と書かれているが、WOAHの規定の中のスタニングは事前スタニングしか規定されておらず、事後スタニングは当てはまらない。 b)以下の保定方法は、深刻な痛みとストレスをもたらすことから、意識のある動物には使用しないこと。 i) 足部又は肢を持って動物(家きんを除く)を吊るす又は持ち上げること。…

茨城県畜産センターの牛虐待事件、改善にむけて

茨城県畜産センターは、牛の虐待事件が告発されて以降、改善に取り組んでいると発表しています。これが本格的なアニマルウェルフェアの導入につながるのか、それとも告発されているがゆえのポーズだけで終わるのかはみんなで見守っていく必要があります。 ただし、私達動物保護団体の視察は拒否されているため、直接の改善確認ができないことは残念です。とはいえ、信頼できる関係者を通じ以下の回答を得ています。 私達は昨年7月に関係者を介して以下の確認をしてほしい旨をお願いしました。 飼育環境の改善が全てのエリアで行われているか 胃液採取の方法の改善をしていただけるか スタンガンの使用が廃止されているか 消毒液を用いての殺処分が廃止されているか 実験計画書に実験の方法について記載欄を設けたか など 私たちが畜産センターを訪問し、現場を確認させていただきたい これに対し、以下のように回答をもらいました。 県畜産センターの牛の管理について、令和5年1月以降、住民監査請求など要望をいただいたところです。 畜産センターでは、国のアニマルウェルフェア(M)の指針(令和5年7月策定)に基づき家畜の飼養管理状況の点検を全てのエリアで実施するとともに、令和5年8月には外部有識者による調査を実施し、必要な事項について改善を行いました。 なお、外部有識者による調査については、毎年実施することとしており、本年度からは、チェックリストに基づく自主点検や全ての職員を対象とした研修会等も行っております。 その上で、お問い合わせの点について以下のとおり回答いたします。 1 飼養環境の改善が全てのエリアで行われているか ・これまでの外部有識者による調査や自主点検に基づき、全てのエリアで以下のとおり改善を実施しております。 (主な改善項目) ◯乳牛の休憩場所の土が固く快適性に問題があったことから、令和5年8月以降、月2回の土の振り起こしを実施するとともに、固くなりにくい川砂をブレンドすることにより、牛の快適性を確保しました。 ◯(牛舎内の糞牌を覆うグレーチングに隙間があり、牛が肢を落として怪我をする可能性があったことから、令和5年度中に隙間なくグレーチングを設置しました。 ◯パドック内に日陰がなかったことから、令和5年8月に寒冷紗の日よけを設置しました。 2 胃液採取の方法の改善をしていただけるか ・研究を実施する上で、胃液探取の必要性が生じることがありますが、その際、できるだけ苦痛を与えないために、短時間で達やかに行う必要があります ・現在、胃液採取を行う実験は計画しておりませんが、今後、胃液採取を行う場合にはより家畜に苦痛を与えないよう手技・手法についても検討してまいります。 3 スタンガンの使用が禁止されているか ・スタンガンは使用しておりません。なお、スタンガンは廃棄済みです。 4…

Good news! スタバ、豆乳オプション価格を無料化

スターバックス社は2025年1月31日に、2025年2月15日から「● 全店一律で、豊かな味わいをより気軽に楽しんでいただくため、ビバレッジ商品のソイミルク(豆乳)※1 変更を現在の54 円/55円(持ち帰り価格/店内価格)から無料化」することを発表しました。 多くのカフェで、豆乳などの植物性ミルクに変更するためのオプションがあります。しかし、スターバックスでも追加54円の追加が必要でした。これらが変更無料になるとのことで変更する人が増える可能性があります。 大人になって生乳を飲む機会はそれほど多くはないように見えますが、カフェでのカフェラテやカフェ・オ・レ、カプチーノなどで生乳を大量に消費しています。 乳牛の苦しいを克明に暴露した14番とよばれた雌牛の記事では、カフェへ意見を届けることを中心に訴えていました。これに応えたのかどうかは不明ですが(国内のスタバは動物保護団体との話し合いを拒否しています)、今回の判断はとても勇気づけられるものです。 https://www.hopeforanimals.org/no14/ 以下のようにスターバックスはサイトで発表しています。ぜひ田の植物性オプションも無料化し、選択肢を増やしてほしいですね。 今後もより豊かな体験の提供を目指して、アーモンドミルクやオーツミルク※1 についても調達状況等を踏まえ、無料化に向けた検討を進めていきます。これらの植物性ミルクの利用拡大により、CO2排出や水使用を抑制でき環境負荷低減が見込まれ、スターバックスが目指すリソースポジティブの実現にもつなげていきます。…

雌雄鑑別養成所、改善に向かう一歩

ひよこの雌雄鑑別技術を教える養成所で、講習生一人当たり2万羽(履修期間は5ヶ月)を犠牲にし、ひよこのひどい扱いや、倫理観の欠如した感覚が明らかになった件で、養成所を運営する母体である公益社団法人畜産技術協会に改善のお願いをしていましたが、畜産技術協会からいただいた回答で、改善に向けて一歩進み始めることがわかりました。ただ、元講習生の話と食い違う点や、改善が不十分と思われる点があり、再度改善を求めています。 とはいえ、”アニマルウェルフェアの普及に取り組む団体”として真摯に向き合ってくれていることに感謝します。 畜産技術協会からの回答 最初にご要望並びにご質問全体に対するご回答をさせて頂きます。 アニマルウェルフェアの普及に取り組む団体として、弊会の実施する初生雛鑑別師の養成に対して、ご指摘を頂いたことに感謝し、真摯に対応をしたいと考えています。 初生雛鑑別については、卵内鑑別の技術が年々向上する一方で、我が国での技術活用の速度等が不透明であり、この間の卵や鶏肉の安定的な生産に不可欠な技術として、アニマルウェルフェアに配慮しながら維持をしていく必要があると考えております。 1:問題点の改善について 情報提供により、養成所には以下の問題点があると認識しています。 下記A~Lの問題点の中で、すでに改善されているものがあればその改善の内容を教えて下さい。 改善がなされていない場合、改善の計画及び改善を完了する時期を教えて下さい。 改善を行わない場合、その理由を教えて下さい。 不適切な環境 A.講習は夏で暑いにも関わらず適切な空調がなされていなかったA 初生雛鑑別師養成所では、講習生や職員、ヒナへの負担を減らすため用の業務用エアコン(2台)や扇風機等を導入しております。孵化後0〜3日の雛の適温は、30〜35度程度と言われており、現状では初生雛に対する夏の暑さの問題は大きくないと考えています。むしろ、湿度に対する配慮が必要と考えており、養成所では、到着時に雛箱に入っている初生雛の羽数を減らし(120羽→80羽)、更に換気のために扇風機を使い、風も初生雛に直接当たらないよう配慮し間接的に風を流すなど、初生雛の管理に必要な対応をしています。 法令違反の可能性もある虐待的行為 B.初生雛が絶食絶水で箱の中に入れられている (回答) 初生雛の体内に残る卵黄中の栄養が消費されるまでに孵化後2〜3日を要するため、給餌の必要性は低いと考えています。また、給水についても、卵黄から一定量が供給されるため、これまでは無給水での管理をしてきました。しかし、近年の夏の高温期における初生雛の水分補給については、改善する必要性があると考えておりますので、飲水させる方法について検討する予定です。 C.箱の中には死んだ初生雛が一緒に入れられている (回答) 初生雛の輸送に際しては、雛への暑熱等の影響を極力さけるため、風通しと換気のための空気動線の確保等に配慮し、施設到着後は、箱内の羽数の調整、温度か、箱の組み方を工夫しながら扇風機の風量や方向の調整を丁寧に取り扱っています。 その上で、死亡した初生雛がいた場合には、発見し次第、取り除いています。 D.箱の中には弱ってボロボロの状態の初生雛も一緒に入れられており治療または適切な安楽殺がなされていない (回答) 講習生は、初生雛鑑別師養成所に入所後、最初の1か月程度は負担をかけないように優しく保定する練習から実習を開始し、次に初生雛負担をかけずに肛門を開くために脱糞をさせる技術の実習を行います。この初期の実習で初生雛を優しく扱うための基礎技術を習得し、その後、徐々に初生雛の肛門を開いて雄と雌を鑑別する技術の実習に移っていきます。養成所では、上記のように初生雛へのダメージを避けるため、初期の初生雛を保定する方法等の基礎技術の習得に時間をかけています。しかし、初期段階での失敗を完全に防ぐことは困難であり、基礎技術の習得が不十分な場合には残念ながら初生離にダメージを与えてしまうこともあります。また、発育不良や奇形等が原因で、元気のない初生雛が混じっている場合もあります。 箱の中で弱ったり、深刻なダメージを受けた初生雛を発見した場合には、初期段階ではその都度ベテランの鑑別師が安楽死処置を講じています。 E.指の力を入れすぎや複数回練習に使うこと等により、肛門からお腹の下あたりまで腹が裂けることがある (回答) 初期段階で基礎技術の習得が不十分段階では、一部の講習生の中には肛門を開く際に指に力が入り過ぎ、初生雛にご指摘のようなダメージを与えることがごく稀ですが起こります。このため、ベテラン講師が徹底して、このような事故を繰り返さないように、爪の管理方法から細かく指導を行っています。なお、講習生が初生雛に深刻なダメージを与えた場合には、その都度、ベテランの鑑別師が安楽死処置を講じています。このような事故は初生雛が奇形等の場合に発生しやすいと言われているため、事故の発生件数を減らすために、事故を起こしやすい奇形と判断した初生雛については、今後は実習には使用せず安楽死処置を講じることとします。 F.Eについて、腹の裂けた初生雛に対して治療がなされていない…

動物への配慮、進みを阻害するのは誰か

アニマルウェルフェア、アニマルライツ、双方ともに日本の進みは遅い。それでも着実に進展していて、この進展は加速されて然るべきものだ。欧米はともかくとしても周辺アジア諸国でも進んでいて、止まっていたら経済も健康も生物多様性も気候変動もすべての面で悪影響を受ける。 アニマルライツセンターは企業との交渉を継続してきており、これもまた他国と比べれば進みは驚くほど遅かったとしても10年前と比べると様変わりした。 活動を続けてきて、全く動かなくなるときがくる。それは属人的なものがほとんどであり、その担当者がいなくなると動き出すなんてことが多々起きてきた。 一体どのような人が壁になるのか。 動物にシンパシーがある人こそ壁になる アニマルライツセンターの記事でこのことを書く理由は、そのような人たちが比較的近しい人である傾向だからだ。 企業と話をしようとアポイントを取ってみると、担当者がアニマルフレンドリーであることがある。例えば「実は私もほとんどヴィーガンなんです」「日頃の生活はみなさんとおなじです」「サイトを見たことがあります」「ベジタリアンなのでこの近くのお店教えましょうか」「保護猫の活動しています」などという人に出会う。思わず喜んだりして、話を進めてみると、全く進まない。気がついてみたら、その人が企業の防波堤となり、話をする時間はすべて無駄となる。 幸い企業は部署変更が定期的に行われるため、担当者は変わる。すると、何の引き継ぎもされないまま、消えていったことに気がつく。そして新しい担当者に私達は「御社はお取り組みが遅れている企業です」と通告せざるを得なくなり、慌てて進めることになったりする。 数年を無駄にするこの防波堤となるアニマルフレンドリー担当者。その心理は以下のようなものに起因する。 自己検閲(Self-Censorship) 自分の意見や信念を表明することができるにも関わらず、「これは受け入れられないかもしれない」と事前に自分で判断をしてしまい、発言を控えてしまうことだ。つまりよくある”忖度”だ。企業文化や同僚、上司の反応を気にして、アニマルウェルフェアの推進を遠慮してしまう。 フォールス・コンセンサス効果(False Consensus Effect) 実際には動物福祉に関心がある人が社内にいる可能性があるのに、「どうせ誰も賛成しない」と決めつけてしまう心理だ。アニマルウェルフェアの問題は数年前は会社の中で誰も知らなかったような課題だ。だから、この心理は起きやすい。ずっと誰も賛成もしてこなかっただろうし、むしろ話題にのぼったことがない環境で過ごしてきたからこそ、アニマルウェルフェアの話に自分が納得したとしても、これは自分が昔から動物のことを考えているから納得しているだけで周囲は以前と変わらず賛同しないと決めつける。そして何も行動しないままになる。 実際には、アニマルウェルフェアについて日本では認知が進んでいなかっただけで、食品企業は取り組まなくてはならない課題となっているし、他の企業も取り組みが始まっているのだが、この思い込みは解けにくい。それだけ肩身の狭い思いをしてきたのかもしれないが、アニマルライツセンターからすれば、このような担当者の思い込みを解く作業から入るよりも、反感を抱いているくらいの担当者と話をするほうが話が早いのだ。 実行抑制(Action Inertia) アニマルフレンドリーな人に限らず、多くの担当者で見られる心理だが、別の心理状態として「現状を変えようとしても無駄だ」と感じて行動を起こさない抑制状態もある。社風や会社の伝統やルール、これまでのビジネスだけを優先し「どうせ変わらない」と思い込み、動きが取れない。 だが、一方で、「ヴィーガンなんです」「平飼い買ってます」等と言ってくれる担当者の中にはものすごい味方になってくれる人もいる。つまり、これらの心理的抑圧が発動する人と、そうでない人がいるのだ。上記の心理的抑圧にはまり込んでしまう人は、以下のような別の内面的要因を持っている可能性がある。 ステレオタイプの内面化(Internalized Stereotyping) 「動物のことを主張したらバカにされるかも」「過激だと思われるかも」といった社会的なイメージを内面化してしまい、自ら意見を抑制してしまう心理だ。 自己効力感の欠如(Low Self-Efficacy) 「自分が何を言っても変わらない」「大企業の方針は変えられない」という無力感を抱くことで、行動を起こさない心理状態も大きい。企業内での影響力を過小評価し、積極的な提案を避けてしまうのだ。 企業文化や社会的プレッシャーを過度に忖度してしまい、本来できることをやらない、あるいは進めにくいと感じる場合、これらの心理的なメカニズムが働いている可能性がある。 同時に、自分の立場(たまたま自分が担当であるという立場)を利用し、社内を説得することを避けるというより怠惰な心理も働く。 企業だけでなく、行政でも同じ現象を見てきた。双方とも多くの場合は担当が変わっていくので、夜明けは来るのだが、変わらない場合は悲劇だ。その企業にとっても、アニマルウェルフェアのリスクを肥大させていくことになり、かつ、動物にとっては大きな改善の機会を失うのだ。…